「聖ベス」論文にみる祭祀研究の視角 : ロベール・エルツのために
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概要
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本稿は,フランスの宗教学者ロベール・エルツ(1881-1915)の三本目(そして最後)の論文「聖ベス-アルプスの祭祀-(Saint Besse -etude d'un culte alpestre)」を扱っている。エルツについては,ボルネオ島ダヤク族の死をめぐる習俗(具体的には二次埋葬)・観念に時間的構造をみようとした1907年の「死の集合表象の研究」,ニュージーランドのマオリ族の事例を扱い,右手と左手の価値の差を右利きという生理学的要因ではなく,善と悪,生と死,男と女,南と北,聖と俗,浄と不浄といった社会的な価値の両極を象徴するものとして捉えようとした1909年の「右手の優越」が知られている。彼の師・先輩にあたるM・モースはエルツの研究について,「人間性の間の部分(cote sombre de l'humanite)」を対象としたものと言い表していた。「死」(「死の集合表象」),「タブー」(「右手の優越」),「罪」(博士論文)といった具合に,エルツは宗教に注目する事によって,人間性の裏側に光を当てようとしたのである。「聖ベス」論文でも伝承における「妬み」,祭祀における人々の「対立・葛藤」が取り上げられている。しかし,彼が生前残した最後の論文であるこの「聖ベス」は,フィールドワークによる資料採集を行い,事象から離れることなく理論のレヴェルにまで達している点で前二論文とは異なっている。昨年(2000年),雑誌『宗教研究』において,「「民間信仰」研究の百年」という特集が組まれたが,「聖ベス論文」は「民衆」レヴェルの宗教研究として,88年前の論考でありながら現在でも十分参考になり得る。むしろ「民衆」レヴェルの宗教への取り組み方,その概念そのものの再考が要請されている現在だからこそ,この論文を見直す意味があるのではないだろうか。以下では,祭祀とそれにまつわる伝承,歴史について彼がいかなるアプローチを施したかを,同時代のフランスのフォルクロリスト達,フランス社会学派のモースなどと比較しつつ考察し,その位置付けを行なう。This article analyzes research on the worship of Saint Besse carried out by French historian of religion Robert Hertz. He undertook field investigations of the cult of Saint Besse from July 2,0th to September 1st, 1912, in an area known as the Aosta valley. Though this area lies within the Italian border, the people of that region maintained their tradition of speaking ancient Provengal, or Langue d'Oc, more closely affiliated with neighboring France. This study was significant, as it was the first ever field investigation undertaken by a member of the Durkheimian school. Hertz's research targeted the rituals, faith, narratives, legends, and iconography surrounding the figure of Saint Besse. Though research into popular belief and tradition had been undertaken in folklore studies up to that point, Hertz approached the subject as a sociologist. His study thus served to mediate between the two disciplines, and can be seen as a precedent in the field of French ethnology. The originality of his research is demonstrated in this paper through a comparison of his analysis of a festival with those of a French folklorist and another sociologist from the same time. It is hoped that this analysis will provide insight into contemporary research in similar areas.
- 2002-03-31
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