都市における緑地としての社叢空間の評価に関する研究(2) : 空間スケール別にみる都市緑地における社叢の分析
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概要
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本論文は,2006年に東京大学に提出した学位論文の後半部分であり,前半における自然に対する神道の空間認識と日本人の自然に対する空間概念形成の整理に続く,都市における神社や社叢の緑地としての現状の実態分析及びその評価と位置づけることができる。本研究の立脚点は「緑地」という視点を通して時間的な軸と空間的な軸から社叢空間を捉えようとするところにある。本論文は五章で構成されており,各章は以下の通りに位置づけられる。第1章においては,本研究の背景と目的ならびに位置づけを明らかにした。まず,問題の所在,本研究に反映させる問題意識を述べ,関連する研究の流れや位置づけを通覧し,それぞれの研究のアプローチ及び方法論を整理することによって,本研究の位置づけを試み,その目的及び方法を明らかにした。設定した本研究の目的は,社叢を緑地という視点で評価することの意義と妥当性を明らかにすることとし,具体的には①マクロスケール:神社・寺院・公園の立地の分布形態を比較することにより,都市における神社の立地と地形との特徴を明らかにすること②メソスケール:斜面地における社叢の立地と周辺緑地との関係性を明らかにすることにより,緑地の分布形態における社叢の特徴を明らかにすること③ミクロメソスケール:斜面地における神社空間内部における社叢の位置と特徴を明らかにすることにより,斜面立地型神社における社叢空間の位置による緑地維持機能を明らかにすること以上の3点を研究目的とした。第2章においては,神社の立地は凝集性を持たず全域にわたってランダムに分布しながら,寺院や公園に比べて地形との結びつきが強いことが明らかになった。従って,神社が集塊性を持たず局所的な分布の偏りが無くどの地域にも存在するため,あらゆる地域において最も身近な緑地空間になり得る潜在的特性を持ち,なお且つ公園の立地と異なり,地形の変化や自然性を考慮した緑地空間として評価できる空間に成り得る潜在的特性を持つことが明らかになった。第3章においては,社叢は,単独で緑地空間を形成するには十分な面積を持ち合わせていなかった。対象地における神社数は125で東京都区部全体の15.5%であり,この内,社叢をもつ神社数は23社で対象地における神社全体の18.4%であった。周辺に緑地が存在せず且つ社叢がある神社は3件のみであった。このことは,社叢が単独で存在するのは困難であるということを示唆するものであった。それどころか社叢をもつ神社数は対象地における神社全体の18.4%で,緑地そのものを持ち合わせていない神社も多数存在しており,このままでは人々が神社の空間を緑地として認識するきっかけすらも失わせる事になるという危惧をはらんでいる事が明らかになった。しかしながら2点目として,社叢とその周辺の緑地を連担することにより,社叢空間を軸とした都市緑地を形成できる可能性が示された。つまり,社叢空間を基点としてその周辺の緑地を結びつける緑地空間概念という発想が生まれたわけである。社叢が周辺の緑地と連担性をもっている確率は87.0%で非常に高い値を示した。特に本研究では緑地に関わる社叢と地形との関係を明らかにするために,斜面地を主な対象とした社叢と周辺の緑地の連担性に着目した配置特性を分析することにより,社叢の特徴がより一層明らかになった。第4章においては,斜面立地型神社における社叢空間の位置による緑地維持機能において,特に優れていたのは丘陵状の地形に立地する神社であった。このタイプは社殿周辺全てに社叢空間が形成されるため非常に高い緑地維持機能が認められた。同様に,斜面の遷緩線側に社殿がある場合も緑地維持機能が高かった。これは,社殿背後に社叢空間が形成されているためであった。逆に,斜面の遷急線側に社殿がある場合は緑地維持機能が高いものと低いものに分かれた。この差を生み出した原因としてはいずれのタイプにおいても参道と斜面の傾斜の関係性が原因として考えられた。第5章では,第2章から第4章の結果をまとめるとともに本研究の結論を述べた。以上の研究から本論文では,神社の屋外空間に対する空間配置を分析したことで,実態的側面から神社の空間を緑地という視点で評価することの意義と妥当性を明らかにした。| This monograph consists of 4 chapters.
著者
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