中国における林業政策の変遷と吉林省にみる森林管理の展開過程
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概要
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新中国建国後,国家再建と社会主義工業化実現のため,木材生産を主位に置いた森林資源の経済的効果だけを追求する採取的林業が確立された。その後,経済の発展と人口の増加に伴い天然林資源開発が進められ,土壌流出,砂漠化の進行,生物多様性の低下,自然災害の多発,水資源の不足などの生態環境問題が深刻となっており,近年では国の生態環境整備の中での森林・林業の役割が高まり,森林・林業の位置づけや林業政策には大きな変動が見られている。吉林省は森林面積で全国第5位を,木材生産量で全国第2位を占めており,新中国の建国以来50年間で約2.4億m3の木材を生産してきた,国家の重点国有林区,木材生産地域である。そのため,吉林省では中国における林業経営の展開過程のさまざまな面を見ることができる。そこで,本研究では,吉林省を事例に統計資料,文献調査により中国における林業政策の変遷を整理すると同時に,林業政策の変化が吉林省の森林管理の展開にどのような変化をもたらしてきたかについて検討し,吉林省における今後の森林管理の展望と課題について考察した。研究方法は資料に基づき,林業政策を軸として時期区分を行うと同時に,実証分析を行った。1 採取的林業経営体制の確立(1949~1983):新中国の成立後,中国では“全面的に森林資源を保護し,造林を重点に,合理的な伐採と利用を実現し,木材を節約する”という林業経営方針を打ち出したが,立ち遅れた国民経済の回復のため木材に大きな期待がかけられ,林業政策は営林より木材生産を重視するようになり,森林管理は木材採取が中心となった。こうした林業政策の影響を受け,吉林省の木材生産量は大幅に増加したが,造林は資金不足のため国民の奉仕にたよる“大衆動員”造林が行われたが,造林成功率は22%と低かった。2 採取的経営の成熟から森林資源の合理的利用への移行(1984~1997):林業政策は木材生産を重視すると同時に,森林資源の合理的利用を図っていた。こうした政策の影響を受け,吉林省の木材生産量は依然として高い水準のまま維持されていた。しかし,重視されつつある営林事業は進まず造林面積は減る一方であった。3 採取的林業経営の終焉と森林資源の保護,持続可能な経営への移行(1998~現在):人口の増加,経済の発展に伴う自然環境の悪化につれ,林業政策は木材生産より森林資源の保護,生態環境保護を重視するようになった。したがって“天然林保護プロジェクト”の実施に伴い,天然林の全面的な保護が始まると同時に,木材生産を天然林から人工林へと移行させようとしている。こうした林業政策の影響を受け,吉林省の木材生産量は大幅に減少した。しかし増加をめざした造林の成績も減少に転じてしまった。以上の考察から中国の林業政策は,森林資源の経済的効用の重視から森林資源の生態的効用の重視へと大きく転換しつつあることがわかる。これによって,吉林省における森林管理は,天然林資源を保護し,木材生産を天然林から人工林へ集中させるために,人工林面積を増加させて集約経営を行うと同時に,地域住民の森林利用を厳しく抑制する方向へと進むと思われる。しかし,経済効率を追求する現代社会において,資金回収が長い造林事業の展開は難しいことと,これまで森林資源に頼って生活していた地域住民の森林・林業に対する意識を改変させていかない限り,森林利用規制は有効に機能しないことも認識しなければならない。After the foundation of the People’s Republic of China, timber production was the dominant objective of forest management. This resulted from the demand for timber for state reconstruction and socialist industrialization, After that, with the expansion of the development of natural forest resources, which accompanied the growth of the economy and the increase in the population, environmental problems emerged and became more and more serious. Among these environmental issues were ecological problems such as the soil flowage, the expansion of desert areas, the decline of biodiversity, the frequent occurrence of natural disasters and the lack of the water resources. As a result, in recent years, the role of forests and forestry in national ecological environmental improvement has become increasingly important and a big change has been seen in the positioning of forestry policy.
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