主観のれん説の総合的検討 : 資産の評価規約(2)
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概要
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前号(「主観のれん説の総合的検討――資産の評価規約(1)――」『三田商学研究』第49巻第1号)においては,主観のれん説における事業資産の取得原価評価の理論的根拠について検討した。結論的には,主観のれん説の立論の趣旨に照らせば,主観のれん説の主張するような取得原価ではなく,購入時の売却時価で評価されるべきであると筆者は考えている。次に,本号では,金融資産の評価について検討することとしたい。しかし,この点に関する主観のれん説の主張は,きわめて晦渋であり,率直に言って,筆者にはどうにも理解し難い。その原因は,金融資産の時価評価の原理的妥当性とその一般的適用性の否定という論理にあると筆者は考えている。つまり,金融資産(市場性ある金融資産)の時価評価は,原理的には妥当なのであるが,しかし,一般的には適用できず,換金に事業上の制約がない売買目的有価証券にのみ限定して適用されるというのである。かくして,換金に事業上の制約がある満期保有目的有価証券およびその他の有価証券は,別の評価規約に服するのである。具体的に言えば,前者の満期保有目的有価証券は,償却原価で評価され,後者のその他の有価証券は,時価で評価されるが,その評価差額は資本項目になるのである。原理的妥当性と一般的適用性の否定といったこうした論理が会計理論に援用されることについては,筆者は大きな懸念を抱かざるを得ない。しかし,現にこうした主張がなされているので,当面,そうした論理に従って,原理的妥当性の局面と一般的適用性否定の局面とに別けて,検討せざるを得ない。本稿では,原理的妥当性の局面に関して,金融資産(市場性ある金融資産)の時価評価の理論的根拠の問題をⅢで,また一般的適用性否定の局面に関しては,売買目的有価証券の時価評価の理論的根拠の問題をⅣで検討する。原理的妥当性の局面における金融資産(市場性ある金融資産)には,売買目的有価証券のみならず,満期保有目的有価証券・その他の有価証券も含まれているので,主観のれん説においても,金融資産それ自体をキャッシュフローとみることは,不可能である。それにもかかわらず,時価で評価するためには,売却擬制が必要になるように筆者には思われる。しかし,期末に保有している金融資産について,売却擬制を行なうことには,合理性が認められない。したがって,主観のれん説は,金融資産の時価評価の原理的妥当性を合理的に説明しているとは言い難い,というのが本稿の結論である。次に一般的適用性否定の局面における売買目的有価証券であるが,この局面においては,売買目的有価証券の将来の期待は,購入時点で予測された将来のキャッシュフローではなく,将来の市場価格に変質しているようである。したがって,この売買目的有価証券の時価評価に関しては,この将来の市場価格としての将来の期待の問題と,換金に事業上の制約がないという問題との2点を取り上げなければならない。そのいずれもが,売買目的有価証券の時価評価を合理的に説明していない,というのが本稿の結論である。
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