分数量子ホール系を記述する厳密基底状態をもつ1次元格子模型(最近の研究から)
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概要
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量子ホール効果とは,強磁場中の2次元電子系において,最低ランダウ準位の電子の占有率が2つの整数比ν=p/qで与えられるとき,試料に印加された電流とは垂直方向への応答,つまりホール伝導率がσ_<xy>=(e^2/h)νという値に量子化される現象である.νが整数値となるものは整数量子ホール効果と呼ばれ,アンダーソン局在によって起こる現象であるのに対し,νが分数となる分数量子ホール効果は局在に加えて,電子相関効果が本質的な役割を果たしている.したがって,後者の分数量子ホール効果は強相関量子系の重要な研究テーマとなっており,発見された1980年代から30年経つ今日でも,盛んに研究されている.最近では,たとえば,回転する冷却原子を用いたボーズ粒子系,グラフェンなど,新たな系における分数量子ホール状態が注目されている.また,量子ホール系の拡張として,トポロジカル絶縁体の研究も盛んになされている.分数量子ホール効果は,いわゆるラフリンの波動関数など,物理的直感に基づいて提唱された変分波動関数によって研究されることが多かったが,近年,分数量子ホール効果を理解するための新しいアプローチとして,分数量子ホール系を1次元格子模型として定式化する研究が進んでいる.これは,2次元電子系の相互作用のポテンシャルをランダウ・ゲージとトーラスの境界条件を用いて第2量子化することで,1次元の格子模型の問題に焼きなおすものである.この考え方の特に重要な点はトーラスを連続変形して,トーラスを細くした極限を起点とすることで問題を簡略化することにある.このような考え方により,我々は分数量子ホール系を定性的に記述する厳密な基底状態をもつ模型を見出した.さらに行列積法という手法を導入して波動関数を表現することにより,種々の物理量を解析的に簡潔に計算できるようになったのも重要な進展である.さらに近年導入されたエンタングルメント・スペクトルという量を用いて量子ホール状態に現れるエッジ状態の記述を行った.このように2次元の連続系を1次元の格子模型で表し,厳密な議論ができることは,分数量子ホール効果やそれに関連したトポロジカル絶縁体などの理解へも役立つだけでなく,数理物理学的にも大きな意義がある.また,量子スピン系など,異なる物理系との包括的な理解も期待される.
- 2014-07-05