意識消失時の生命維持の安全域-質の高いBLSを行うための病態生理
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概要
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歯科臨床において全身麻酔や精神鎮静法などにより患者の意識を低下ないしは消失させる必要がある。また、近年基礎疾患をもつ高齢者患者の増加などに伴い歯科治療現場でも偶発的な心肺停止を含む意識低下など危機的状況への対応の必要性が増している。これらの基礎である一次救命処置は胸骨圧迫心臓マッサージやAED・人工呼吸などの要素からなるが、訓練は教条的になりがちである。意識消失時に身体がさらされる危機とその対応策の生理学的背景を理解することは医療の質の向上には欠かせない。意識低下時の第一の問題はヒトの口腔から咽頭/喉頭にかけた解剖的特徴に起因する舌根沈下による窒息状態である。窒息による外部からの酸素供給停止がもたらす細胞の低酸素状態は細胞内ATPの低下/膜電位の不安定化を通じて不整脈や心停止などの重篤な状態をもたらすので救急蘇生時には速やかな対応が必要である。しかし、体内には呼吸停止後も利用可能な酸素が肺内の機能的残気量と未利用ヘモグロビン結合酸素として残存している。呼吸停止から体内の酸素枯渇までの時間は、本文中に示した方法で安静時の酸素消費量と体内の残存酸素量を推定することで誰にでも概算できる。このような推定を理解すれば通常の成人であれば5分程度の余裕があり徒に慌てる必要がないことが納得できるだけでなく、酸素投与の意義・小児の時間的制約・発熱状態や呼吸不全など基礎疾患がある場合等々それぞれどのよう考えるべきかの応用も可能になる。一次救急蘇生は訓練を通して身体で覚えるだけでなくその病態生理を知ることで医療の質が高まることが期待される。
- 2013-09-20