危険源推定支援ツール「マトリックス」の作成 原因不明の健康被害発生に対応した原因推定支援ツール作成の試み
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概要
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種々の脅威から地域の人々の身体生命を守る健康危機管理は,今日の保健所にとって最重要課題の一つである.健康危機管理における,原因の速やかな推定には,被害者の症状等から,適切な健康被害の原因因子hazard(以下,危険源という)を,可能性の高い順に列挙し,必要な補足情報が何かを示し,さらに推断の精度を上げるという一連の作業が必要である.従来この作業は,個人的な経験に基づいて行われてきた.しかし,そこには重大な危険源を見落としてしまう危険が少なからず存在する.そこで,我々は,見落としの可能性を減少させるため,パソコンを利用した危険源推定ツール「マトリックス」の作成を試み,既存の事例に当てはめ的中の程度を評価した.方法 まず,危険源の知識ベースを作成し,ついで,危険源・症状マトリックスを作成した.症状には点数による重み付けを行った.中核的な症状,特異性の高い症状,発現頻度の高い症状により多くの点数を与えた.入力画面のチェックボックスに入力すると,総当たりで標本照合し点数の合計を計算する.これを各危険源の点数の総和で除したものを百分率で表す.出力画面に百分率の高い順に表示する.さらに,推定の確度をあげるために必要な補完情報が何であるかを表示する.これとは別に,患者・被害者の行動や周囲の環境条件や動植物の異変などから危険源を推定する手順を作成した.各危険源に対し環境条件から推定される可能性を4段階に分けて表示する.ただし,危険源の順位の並べ替えは行わない.これによって,症状のみからの推定で,偶然に高い確率を示した可能性のある危険源を示すことができ,対応者による危険源推定の参考となる.結果 「マトリックス」を70の症例に適用し有用性を検討した.上位10件の中に事例の原因となった危険源が存在すれば的中と判定した.的中率は約66%であった.結論 我々が作成した危険源推定ツール「マトリックス」は,原因不明の健康被害発生時における原因推定の一助となりうる.このツールは,さらに多くのデータに対して有効にされるべきである.また,専門家によるツールの評価が必要である.
- 国立保健医療科学院の論文