異なる季節に与えた物理的傷害に対する4樹種の反応
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概要
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物理的傷害に対する辺材の反応は,樹種,季節により異なると考えられる.そこで,異なる4樹種のメタセコイア(Metasequoia glyptostroboides Hu et Cheng:落葉針葉樹),ヒノキ(Chamaecyparis obtuse Sieb. et Zucc.:常緑針葉樹),コナラ(Quercus serrata Murray:落葉広葉樹)及びシラカシ(Quercus myrsinaefolia Blume:常緑広葉樹)を事例として,それらの幹に,1月(冬),4月(春),7月(夏),10月(秋)にドリルで穿孔し,その後の反応を調べた.供試木は1回につき各樹種6本の幹に5箇所ずつ,樹幹直径の約1/6の径のドリル刃を用いて電動ドリルにより幹の中心まで達する穿孔を行った.ドリルによる付傷から2週間後,2ヵ月後,6ヵ月後にそれぞれ2本ずつ伐倒・鋸断して,付傷部を中心とした横断面と放射断面を観察し,木部の変色,腐朽の広がりを記録した.同時に,傷口の癒傷組織による閉塞度を測定した.観察の結果,全ての樹種で辺材の変色は軸方向に長く進展し,接線方向への広がりはごくわずかであった.ドリル孔に沿った放射断面(縦断面)上の変色部の形は,針葉樹と広葉樹とで異なった.すなわち,心材を形成していた針葉樹2種では軸方向の変色範囲は,心材に接する辺材最内層でもっとも長く,形成層に近づくほど短かくなったのに対して,心材を形成していなかった広葉樹2種では,変色の範囲はドリル孔を通る半径の中央部,すなわち形成層および髄の両方からもっとも離れた部分でもっとも長かった.これらの違いが心材形成の有無による差異なのかあるいは針葉樹と広葉樹に一般的に当てはまるかどうかは,今後の課題である.付傷を行った季節による変色範囲の違いは,2週間および2ヵ月後ではすべての樹種において成長期の付傷のほうが成長休止期の付傷に比べて,変色の範囲が大きい傾向が認められたが,樹種により最長あるいは最短となる時期に違いが見られた.一方,2ヵ月後から6ヵ月後に至る期間での変色範囲の拡大は,成長休止期(秋,冬)に付傷した個体のほうが成長期に付傷した個体よりも大きかった.また,6ヵ月後の傷口の閉塞度は,秋に付傷したものが他の季節のものよりも顕著に小さく,治癒が遅れた.以上の結果より,付傷後の短期の傷害反応としての変色部の形成は,成長期に付傷したものの方が広範囲に起こるが,成長休止期の付傷ではその後の成長期に変色範囲が大きく広がるため,時間経過に伴って付傷の季節による差異は小さくなっていくものと推測された.また,付傷後の6ヵ月間の観察では,変色範囲は時間の経過に伴い拡大し続けていることが明らかにされた.異なる季節に与えられた傷により生じる変色,腐朽の最終的な広がりの差異を判断するには,より長期間の継続観察が必要と考えられた.
- 樹木医学会の論文
- 2011-01-31
著者
-
福田 健二
東京大学大学院新領域創成科学研究科
-
福田 健二
東京大学大学院農学生命科学研究科
-
山田 利博
東京大学大学院農学生命科学研究科
-
山田 利博
東京大学大学院農学生命科学研究科附属千葉演習林
-
山田 利博
森林総合研究所
-
ズヘル スレ
東京大学大学院新領域創成科学研究科
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