薬物動態・薬力学におけるモデリングと臨床試験シミュレーションの利用
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概要
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1993年から2003年の間,米国では,新医薬品の開発における必要な経費は毎年増加し,一方,新医薬品候補化合物が新医薬品として承認を得た数は年々減少傾向にあり,2002年にはピークの頃1996年の約1/2に減少した.新医薬品の候補化合物の成功確率を上げ,また,開発中止によるコストの浪費も減少させるために,最近の10年の間に,規模の大きい製薬メーカーの間では薬物動態(PK)・薬力学(PD)におけるモデリングと臨床試験シミュレーションの利用が広がっており,欧米の規制当局でもこの手法の重要性が認識されている.モデル構築のためには,PK,PD,のほかに病態の進行,バイオマーカーと臨床アウトカムの関係,プラセボ効果,被験者特性の影響,被験者の臨床試験からの離脱,服薬遵守状況などの情報が必要でこれらを統合してモデル化を行う(モデリング).モデル化ができれば,予定している臨床試験に組み込まれる被験者特性や臨床試験からの離脱,服薬遵守状況などの分布を想定してコンピューターで擬似的に,予定している臨床試験から得られるであろうと考えられるデータを発生させ,結果を予測することができる.この過程を繰り返すことで仮想的に臨床試験を何度でも繰り返して行える(臨床試験シミュレーション,CTS).CTS により実際の試験を行わずに,効果と副作用によるリスクを勘案したうえでの成功確率を定量的に予測することができる.この方法は,Model Based Drug Development(MBDD)と呼ばれている.モデル化には,通常,個体間変動と個体内変動を分離して解析できる母集団解析の手法が取り入れられる.統計的には,非線形混合効果モデルを扱う.欧米ではCTSを基にした試験のデザインや用法用量の最適化により新薬の臨床開発が効率良く行えるようなガイドライン等が出されている.日本ではガイドライン等はまだ出されていないが,PK-PD解析やモデリングとCTSの活用が新薬の承認審査等において議論された事例が報告されている.国内のドラッグラグを早期に解決する方法としてもPK-PD解析やモデリングとCTSは有望な手法であると考えられる.それをなしえるためには薬物動態,臨床薬理学,生物統計,医学,臨床開発などの専門家の協力体制や,人材の育成が必要である.
- 2011-02-00
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