森林生態系の物質循環および渓流水質からみた攪乱影響評価の可能性
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概要
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現在,日本の森林生態系は,人工林施業,食植生昆虫やシカによる植生の衰退,窒素飽和など,様々な攪乱にさらされつつある。これらの攪乱は多くの場合,渓流への硝酸態窒素の流出を招き,下流域生態系への影響が懸念される。すなわち,攪乱を受ける森林の管理と流域管理を一体で考える必要があり,攪乱に対する物質循環や渓流水質への影響評価が不可欠であるが,そのことが十分認識されているとは言えない。本稿では,森林生態系に加わる攪乱が物質循環・渓流水質に与える影響について,攪乱の種類ごとに,研究が先行している欧米の例と日本の現状についてレビューした。その結果,日本の場合施業の影響がより長期に及ぶこと,食植生昆虫による植生衰退は伐採よりも影響が低いとされるが,日本で集団枯死を招いているマツ枯れやナラ枯れは,伐採に匹敵する影響を及ぼす場合もあること,高木層よりもバイオマスが小さい下層植生であってもシカの過剰採食を受けることで硝酸態窒素の流出が増加する可能性があること,が示された。また,これらの攪乱に加え,大気窒素降下物量の増加にともなう窒素飽和現象も顕在化しつつあり,複数の攪乱が重複して発生し要因分離が困難になるケースも予測される。攪乱影響評価の上で最低限必要な指標として,渓流水中の硝酸態窒素濃度の季節変化や,集水域の窒素保持能力が挙げられる。硝酸態窒素流出の規定要因の解明のためには,植物の成長量や土壌での窒素無機化速度,土壌有機物の炭素・窒素比にも着目する必要がある。欧米とは気象条件や攪乱の頻度・規模が異なるため,日本の森林で大気-植物-土壌-渓流水一連の物質循環過程を対象として大規模操作実験および長期観測のデータを広域的にそろえ,知見を集約することのできる体制を整えることが喫緊の課題といえる。
- 2012-12-25
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