ギルド構造から垣間見た水田群集の実際的食物網と潜在的食物網(<特集1>今こそ水田生物群集を捉えなおす-ミクロからマクロまで-)
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
水田の生物多様性の実際的な保全・管理には、群集の構造と機能について十分理解した上での丁寧な議論が必要である。一般的に群集の解析には、食物連鎖・食物網の記述を重ねた栄養段階やギルドといった構造解析がよく行われる。水田における群集を題材にして、従来、特定種の保全を主眼にした仮説的な潜在的食物網はいくつか描かれてきたが、多様な環境に存立してきた水田の実際的食物網に基づき、ギルド構造を含む詳細な群集解析を行った事例は乏しい。そこで、野外水田で記載された稲作害虫の重要天敵クモ類における餌メニュー2事例を題材にし、主にギルド内捕食の視点から解析・再検討を行うとともに、これまで記述されてきた潜在的食物網における栄養段階構造のカスケード効果について再検討を行った。その結果、地域の異なる2事例だけの検討結果であるが、重要天敵とされてきたコモリグモ類2種の広食性肉食者では、ギルド内捕食と共食いを合計した頻度は餌メニューの約1/4を占めていた。このような重要天敵のギルド内捕食・共食いの実態から、害虫個体群管理における天敵活用の不確実性の原因を見出す上で、現場における実際的食物網の記載の重要性について論議した。また、さらにクモ類のように主に植食者を食する栄養段階にある低次肉食者と、鳥類のような高次肉食間の栄養段階間のトップダウンカスケードの存在についても指摘した。以上から、従来描かれてきたような鳥類をアンブレラ種やシンボル種とした保全主眼の食物網は、天敵類による害虫個体群抑圧を主眼とした食物網とは必ずしも機能的に連動しないことも想定された。水田生物多様性の保全・管理は重要になる中で、今後は、より生態系サービスの不確実性を少なくするために、直接観察法を基軸とし最新の手法を織り交ぜ、多様な時・空間レベルの水田群集における実際的食物網を丹念に記述・蓄積・解析していくことが望まれた。このような着実なアプローチを土台に、潜在的食物網を描くことが生態学的リテラシーに沿った生物多様性管理の常道であると結論した。
- 2012-07-30
著者
関連論文
- 15 マメ科草生マルチ・不耕起栽培における水稲の物質生産特性 : 半矮性インド型水稲(IR36)の生育・収量
- 14 マメ科草生マルチ・不耕起栽培における水稲の物質生産特性 : ヘアリーベッチの地上部ならびに地下部の貢献度
- 42 マメ科草生マルチ・不耕起栽培における水稲の物質生産特性 : 穂数型日本稲, 穂重型日本稲および半矮性インド稲の乾物生産, 収量および個体群光合成
- 12 マメ科草生マルチ・不耕起栽培における水稲の物質生産特性 : 穂数型日本稲,穂重型日本稲および半矮性インド稲の個体群光合成(第34回講演会講演要旨)
- 11 マメ科草生マルチ・不耕起栽培における水稲の物質生産特性 : 穂数型日本稲,穂重型日本稲および半矮性インド稲の乾物生産と収量(第34回講演会講演要旨)
- 44 マメ科草生マルチ・不耕起栽培における水稲の物質生産特性 : 草型を異にする水稲品種による違い
- 43 マメ科草生マルチ・不耕起によるLISA水稲栽培技術のアグロエコロジカル・デザイン : V. 大規模実験圃における収量および雑草群落の初期推移
- 41 西南暖地における夏ソバ栽培 : レンゲすき込み田における夏ソバの生育・収量
- 自然再生事業指針
- 生態系配慮の基礎知識(その4) : 水田の水生昆虫を対象とした生態学における基礎調査法
- 39 マメ科草生マルチ・不耕起によるLISA水稲栽培技術のアグロエコロジカル・デザイン : III. 土壌及びマメ科植生の窒素供給量
- 湿生植物RDB掲載種の水田農業依存性評価 : 博物館等の収蔵標本における採集地記載情報を用いた一事例から(水田生態系の危機)
- A214 カブトエビを生物農薬として利用するための方策 : II.放飼が水田生物相に与える影響(有用昆虫 寄生・捕食 生物的防除)
- P-17 マメ科緑肥草生マルチを用いた不耕起栽培における緑肥枯死時期がイネの生育,収量に及ぼす影響
- 42 マメ科草生マルチ・不耕起によるLISA水稲栽培技術のアグロエコロジカル・デザイン : IV. レンゲおよびヘアリーベッチを用いた場合の水稲収量と雑草抑制効果
- ヘアリーベッチを用いた草生マルチ水稲不耕起栽培における抑草効果(第33回講演会講演要旨)
- レンゲ草生マルチを活用した不耕起直播水稲作における雑草の発生消長
- シンポジウムの開催主旨について : 愛媛大学農学部環境創造型農林業研究会からの提言(環境創造型水田農法の展開-ダイオキシン汚染水田修復への道-,日本作物学会四国支部会,日本育種学会四国談話会,愛媛大学農学部環境創造型農林業研究会公開シンポジウム)
- 句題「田面静か誰かとめぬか 大実験」
- 多様な生きもの達から観た水田生態系 : 残された高レベル生物多様性の村々のフィールドワークから
- 水田生物多様性の成因に関する総合的考察と自然再生ストラテジ
- ギルド構造から垣間見た水田群集の実際的食物網と潜在的食物網(今こそ水田生物群集を捉えなおす-ミクロからマクロまで-)
- 「今こそ水田生物群集を捉えなおす : ミクロからマクロまで」 企画趣旨(今こそ水田生物群集を捉えなおす-ミクロからマクロまで-)
- スクミリンゴガイ Pomacea canaliculata (LAMARCK) の侵入が水田植物相に及ぼす影響評価 : 松山市内における除草剤散布水田の調査事例から