15周年を迎えた静岡県舞台芸術センター(SPAC)の変容と課題 : 公立劇場と地域社会をつなぐ文化政策の視点から
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概要
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筆者の関心は自治体文化政策研究にある。文化の東京一極集中のなかで,どうすれば地域からの芸術創造を果たせるのか,芸術創造拠点にどんな条件が備われば機能するのか,自治体はどのような文化政策をすすめればいいのか,について調査してきた。これまで京都芸術センター,大阪の劇場寺院・應典院,神戸の民間アートセンターCAP HOUSEなどを詳しく調べてきたが,今回は,これらの研究から浮かび上がった3つの条件を財団法人静岡県舞台芸術センター(SPAC)に適応して分析を試みたのが本論文である。SPACは静岡県が100%出資して設立した公立舞台芸術集団である。専属劇団があり,専用の劇場や稽古場を持ち,芸術総監督が率いる。このように運営主体,劇団,劇場の3つを兼ね備えている公立劇場は全国で唯一で,注目される存在である。しかし,SPACにはどのような人材がいるのか,資金調達状況はどうなっているのか? などについての先行研究はみられない。さらに芸術総監督が交代して2期目を迎えているのに,2期目の取り組みを分析した研究は極めて少ない。SPACの本拠地である静岡県舞台芸術公園が完成した1997年から数えて,2012年は15周年の節目ににあたる。これを機に,筆者はSPACの調査を始め,近年の変容と課題の解明を試みた。分析の結果,浮かび上がった1つは資金調達の苦しい現状である。2000年度以降,県補助金が減額傾向にある現状を浮き彫りにし,対して民間資金調達が十分でない様子を解明することができた。2つには,多様な文化政策人材が全国各地から静岡に集まっている状況を明らかにできた。最後に寄付部門の新設,理事会等の組織見直し,地域社会との連携強化などの財政改善策を指摘し,SPACに対する理解が広がるように3つの提言を示した。