環境運動における戦略的パターナリズムの可能性 : 韓国大邱市三徳洞のマウルづくりを事例として
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概要
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環境運動が地域づくりという文脈で展開されるという近年の傾向を受け,地域の環境を創造する際,環境運動を含めた諸主体が「ともに」かかわるべきである,という認識が一般化した。その結果,地域の環境をめぐる諸主体間の関係が,環境運動におけるひとつの課題となったのである。本稿が事例とするのは,韓国大邱市三徳洞でおこなわれている,住民主導の地域づくり,マウルづくりである。この運動を先導する市民運動家Kさんは,三徳洞の住民と「ともに」マウルづくりを展開しようとしたにもかかわらず,住民は彼に背を向けた。つまり,Kさんの目論見は外れたのである。この背景には,運動が必然的に内包するパターナリズムの問題が存在する。すなわち,環境運動を担うNGOと住民との力関係の露呈が,運動の失敗の原因であったのである。運動の限界に直面したKさんは,みずからがマウルづくりの表舞台から身を引くことによって,この限界を打開しようとした。つまり,運動のパターナリズムを乗り越えるために,パターナリズムを相対化したうえで戦略的に利用したのである。本稿では,Kさんのこの試みを「戦略的パターナリズム」と呼ぶ。話し合いのみでは乗り越えられないような,さまざまな問題を抱える地域社会で運動を展開せざるをえない数々の環境運動に対して,この「戦略的パターナリズム」は,ひとつの有効な視座を提供できるのではないだろうか。
- 2005-10-25
著者
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