地域社会の紐帯と歴史的環境 : 鞆港保存運動における<保存する根拠>と<保存のための戦略>
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概要
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本稿の目的は,歴史的環境保全の社会学的な分析視点を提示した上で,靹港保存問題とその住民運動の事例分析を行うことである。本稿が採用する分析視点は,保存運動の当事者が主張する「保存の論理」を<保存する根拠>と<保存のための戦略>の2つに自覚的・積極的に分節化して把握するものであり,「なぜ保存しようとするのか」という問いに対して有効な分析枠組みである。そしてこの「保存の論理」には,未だ明らかにされていない部分があると考えられる。そこで本稿は,先の問いに答え,「保存の論理」の一つを明らかにするために,靹港保存問題を事例として取り上げた。靹港保存問題とは,湾内を埋め立てて道路を建設する公共事業の賛否を巡って地域社会が二分してしまった深刻な地域紛争のことである。そして靹港の保存を目指して多様な政治運動を展開した一つの住民団体「靹の浦・海の子」を分析し,「物的環境に歴史的に織り込まれた地域社会の紐帯」が保存運動の<保存する根拠>となっていたことを明らかにした。この靹港保存運動における<保存する根拠>は,堀川の「場所性」とは保存対象自体の歴史的蓄積の点で異なるが,生活を下支えする地域社会の編成原理という点では同じ側面をもつ。さらに中筋の<社会の記憶>と靹港保存運動における<保存する根拠>とは,記憶による社会の紐帯という点では重なる部分がある。
- 2005-10-25
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