重層的な環境利用と共同利用権 : ソロモン諸島マライタ島の事例から
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概要
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本稿は、ソロモン諸島マライタ島を事例として、住民と環境とのかかわりを所有権と利用権の文脈から考察したものである。調査地のマライタ島アノケロ村住民が焼畑や野生植物採取などに利用している集落周辺の土地は、他の村の住民が法的に所有している。この土地はもともと複数のクランが所有権を主張していたが、ある個人が裁判によってこれを所有することになった。これには、プランテーションや商業伐採といった、土地を舞台にした経済活動が活発になったことなどが背景にある。アノケロ村住民は、この土地を、焼畑、焼畑以外の栽培植物、野生動物・野生植物の捕獲・採取、商品作物栽培など、重層的に利用している。そこでは、完全な栽培でも完全な野生でもない、セミ・ドメスティケイション(半栽培)が重要な位置を占めている。彼らは土地所有権はもっていないのだが、もともとマライタ島における土地所有が近代的な所有権と大きく異なっていることもあり、所有権と別個に共同利用権とでもいうべきものを有していると考えることができる。それは、環境利用が重層的であることともかかわっている。しかしそうした共同利用権はもともと弱い権利であり、今日、人口集中や商品作物栽培の広がり、それにともなう土地私有化の流れの中で、ますます不安定になってきている。共同利用権を保障することが、住民の生活の安定、住民と環境との重層的な関係の安定のために、重要な意味をもっている。
- 1998-10-05
著者
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