長良川河口堰の事業評価 : 河川開発事業の検討(<特集>コモンズとしての森・川・海)
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概要
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開発事業は事業による便益が、そのための費用や、事業による損失を上回っていてはじめて合理的といえる。そのためには、費用便益分析などの事業評価が必要である。多目的の河川開発事業についての各目的への費用割り振りの方法として、「分離費用身替わり妥当支出法」が定められている。これは費用便益分析の一種である。長良川河口堰は水資源開発特定施設である。水資源開発特定施設の治水用途は、(1)洪水調節、(2)高潮防禦、(3)流水の正常な機能の維持と増進であり、河道流過能力増大の機能および目的はない。同堰は、洪水時には堰ゲートを開放するので洪水調節の目的はなく、潮止めの機能があるので、その治水用途=目的は流水の正常な機能の維持・増進のみである。治水用途が何であるかによって、分離費用身替わり妥当支出法での妥当投資額算定において用いるべき効用(被害軽減の便益)の内容と資本還元率が決定される。長良川河口堰において用いるべきは塩害被害軽減の便益であり資本還元率である。建設省は、浚渫・堰一体論によって、浚渫による洪水被害軽減の便益も河口堰の便益にした説明をしている。しかしこれは、公団法令に違反しており、また、浚渫・堰一体論によったとしても長良川河口堰の機能=目的は潮止め、塩害の防止である。長良川河口堰の事業実施計画では、妥当投資額の算定がなされておらず、専ら、身替わり建設費のみによって治水用途の負担が算定されている。そのため、治水用途の費用負担額(87.89億円)は、塩害防止の妥当投資額に比較して過大であり、費用便益的に不合理である。これは分離費用身替わり妥当支出法によっておらず、公団法令に違反している。
- 環境社会学会の論文
- 1997-09-20