地元住民が野生動物保全を担う可能性 : ケニア南部・マサイランドにおける事例から
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概要
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本稿では「聞く」という環境社会学に特徴的な手法に加え,利害関係者が直接に対話する場面に着目することで,アフリカの野生動物保全をめぐり地元住民と外部者の間に存在する「対立や紛糾の契機となる争点」と「状況の定義のズレ」の内容を明らかにし,「かかわり」と「担う意志」の観点から地元住民が野生動物保全の「担い手=有志」となりうる可能性を検討する。対話の場では,外部者が隠蔽しようとする獣害の問題を住民が争点化を試みており,そこには「動物観のズレ」と「保全の範囲の認識のズレ」からなる「状況の定義のズレ」が見られた。「コミュニティ主体の保全」のもとで主体性・能動性の発揮を期待する外部者に対して,住民は保全を「担う意志」を示さずにいたが,それは外部者による野生動物保全の「状況の定義」が在来の人間-野生動物間の「かかわり」を否定し,住民が「担う」ことが困難な非在来で近代的な「かかわり」を想定していたからである。野生動物保全は歴史的に外部者によって「定義」されてきたが,住民-外部者間に生じる対立の根本にはその「定義」が抱える権力性の問題がある。「試行錯誤を保証するしくみ」のもとで,既存の「定義」を括弧に入れつつローカルな「かかわり」がもつ可能性と対話の場に潜む恣意性に注意しながら野生動物保全を「再定義」することが必要と思われる。
- 2010-11-10