兄島の乾性低木林における水文気候条件
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概要
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Subtropical dry scrub is widely distributed on Ani-jima (Ani-jima Island) and includes rare endemic plant species of the Ogasawara Islands, northwestern Pacific. In this study, we evaluated the hydroclimatic conditions that affect the establishment of subtropical dry scrub on Ani-jima. We have conducted continuous meteorological observations at Ani-jima Point (180 m a.s.l.) at the center of Ani-jima since December 2006. Annual mean air temperature and precipitation at Ani-jima Point were 22.0℃ and 1508.0 mm in 2007, and 21.5℃ and 1609.3 mm in 2008, respectively. These annual precipitation values are 376 mm and 308 mm larger, respectively, than those recorded at the observatory on nearby Chichi-jima (Chichi-jima Island) in 2007 and 2008. In contrast, the potential evaporation calculated from meteorological observations at Ani-jima Point was less than that at Chichi-jima Observatory (1409.2 mm vs. 1507.6 mm in 2007, 1428.2 mm vs. 1558.3 mm in 2008). Thus the annual water balance between precipitation and potential evaporation suggests that hydroclimatic conditions at Ani-jima are relatively wet, contrary to expectation based on the structure and composition of subtropical dry scrub. Precipitation and potential evaporation varied seasonally, with an obvious water deficit developing during summer just after the rainy season. Consequently, the soil moisture content markedly decreased, and the subtropical dry scrub species would have been exposed to severe drought conditions in this period. We concluded that such seasonal drought strongly affects the establishment of subtropical dry scrub on Ani-jima.小笠原諸島兄島には固有種を多く含む貴重な乾性低木林が広く分布する。兄島の乾性低木林における水文気候条件について明らかするため、本研究では兄島観測点(180 m a.s.l.)において詳細な気候観測を実施し、そこで得られた2007年と2008年のデータを用いて、ポテンシャル蒸発量を算出した。兄島の年平均気温と年降水量は2007年が22.0℃ と1508.Omm、2008年が21.5℃ と1609.3mmであった。兄島観測点の年降水量は父島気象観測所に比べ、2007年と2008年で376mmと308mmそれぞれ多かった。その一方で、兄島のポテンシャル蒸発量は父島気象観測所と比べ100mm程度小さかった。降水量とポテンシャル蒸発量により算出した水収支は、兄島の方が父島に比べ湿潤であることを示した。降水量とポテンシャル蒸発量の季節変化から、兄島観測点では梅雨明け直後に降水量よりもポテンシャル蒸発量が上回っており、水不足が生じていた。そのため、その期間には土壌水分量が急速に低下して、乾性低木林の構成種は季節的な乾燥環境に晒されていた。これらの結果から、季節的に卓越する水文気候条件の乾燥環境が兄島の乾性低木林の成立に影響すると考えられた。
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