SPS2000の構造と組立技術総論
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概要
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主構造は太陽電池とスペーステナの形状を支える骨組みである.SPS2000では姿勢制御系を簡素化するために,特に反動制御系を必要としないように,組立の各フェーズにおける衛星形状が重力傾斜力によって姿勢安定となるように設計された.衛星の外観形状は正三角柱で,その柱の軸を南北方向に向けて軌道運動する.外観図を図1に示す.太陽電池は三角柱の2つの2001年3月SPS2000の構造と組立技術総論59側面に配置され,また地球と対向するスペーステナは,残りの1面に配置された.主構造はDouble-Bay Single-Laced Beamと呼ばれるトラスビームで構成し,ロボットを使って無人で組み立てられる.図2に発電量を一定として,三角柱の斜めのビーム長さをパラメータとしてSPS2000衛星の完成形状を検討したときに用いたKr-Ky図(重力傾斜安定判別図)を示す.重力傾斜安定な領域を斜線で示した.SPSは低密度かつ大規模な構造物であるため,建設に必要な資材を1回の打上げで輸送することはできない.このため,モジュール化の思想が提案され,1つのモジュールを1飛行のペイロードとしてパッケージする方法が検討された.概念設計では,「Space Shuttleなどの足場のない空間でどのように組み立てを行うか」,「組立中の姿勢安定をどのようにして確保するか」,に焦点を当て,主として主構造の建造手順が検討された.軌道上での作業台の展開の様子を図3に示す.初回の打上げによって運ばれたモジュールの展開案を図4に示す.部分的に組み立てられたSPSの安定性は,追加モジュールの形状毎に検討され,合計16回の打上げによって完成させる建設シーケンスが提案された.これらの内容は,後に,現北海道電力勤務の福澤修一朗氏によって学位論文「重力傾斜力が作用する宇宙構造物の建設工法論および発電衛星建設への適用」としてまとめられた.福沢論文は,有人宇宙技術を確立したアメリカや旧ソビエトなどとは異なる観点から,宇宙大型構造物の無人建設工法を論じたもので,それをSPS2000の現実的な建設手順に適用し,その建設が現状の技術レベルで十分実行可能であることを工学的に示した点で大変に意義深いものである.福澤博士は,特にその論文の中で,初回モジュールの主構造建設に関するタスク分析を行い,トラス組立ロボット(視覚センサ付き6自由度位置決めアーム2本)1台で軌道上での建設が十分可能であることを示した.図5にロボットの概念図を示す.以上のような検討と平行して,大型構造物の自動組立に関する問題点を洗い出すことを目的とした実験研究が,宇宙科学研究所を中心に行われてきた.本章では,その成果をまとめた2編の報告を収録している.前野氏らは,SPS2000の骨格及びその組立に必要なロボットに関して,今までに行われてきた全ての実験研究を精査し,着目点,実験結果,今後の課題等をまとめて下さっている.本報告によりSPS2000の構造,組立に関する研究経過の一部始終を知ることができる.平山氏らによる研究は,SPS2000の組立機械が必要とするエネルギーを見積もることと,地上で機能検証実験がしやすい組立機械及び試験方法を開発することを目的として行われた.その結果,機構の内部で重力を補償するトラスビームビルダーの有用性が示され,合わせて電力利用効率を向上させる太陽電池の回路構成方法が示された.SPSを建設するには,上述の骨格に係わる作業の他,太陽電池モジュールの展開,送電アンテナの組立,配電線の配置など,様々な作業が必要となる.また,ドッキング装置からの資材の取り出しや運搬,メンテナンス等も考慮しなくてはならない.いずれの作業も上述のトラス組立ロボットで対応可能であることが福澤論文によって明らかにされているが,ロボットの走行装置やクレーンなどの支援装置に関しては,まだ未検討な部分が残っている.総合的にみて,発集電システムや電力伝送システム等の他のサブシステムに比べて,自動組立技術に関する検討は遅れているといわざるを得ない.これは,対象となるサブシステムとの関係が分からないとロボットや組立機械を具体的に設計することができず,逆にロボットや組立機械からどの様なサービスが受けられるかが分からないと他のサブシステムの仕様も決まらないといった関係にあるからである.しかし一方で,大面積太陽電池,大型送電アンテナ,大電力配電線などのSPS特有の機能要素を主構造と一体60 宇宙科学研究所報告特集 第43号化,融合化することにより,建設作業が簡略化されてより低コストで信頼性の高いシステムを構築できる可能性がある.今後は,このような観点から組立ロボットと各サブシステムのインタフェースを見直し,より簡便な建設方法を模索することが必要と思われる.
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