侵害性刺激によるヨーロッパモノアラガイの逃避行動の強化
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概要
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ヨーロッパモノアラガイ(以下モノアラガイ)は接触刺激や陰影により,逃避行動である殻引込み行動を示す.侵害性刺激(ザリガニの捕食行動による攻撃,100 mM KCl 提示など)を受けたモノアラガイは,足と外套膜を殻の内部へ後退させる,より強い殻引込み行動を起こす.それらの攻撃を受けた動物は,24 時間後も陰影に対し敏感に応答していることから,この様な行動の変容と,その細胞機構を検討することを目的として本研究を行った.本研究では侵害性刺激として,繰り返しの接触刺激を50 回提示し,より強い殻引込みを起こしたモノアラガイの24 時間後の陰影に対する応答の変化を行動学的,電気生理学的に検討した.行動観察の結果,侵害性刺激を受けたモノアラガイは,ナイーブ動物と比較し,陰影による殻引込み量と応答回数の増加を示した. これまでに接触刺激による殻引込み行動の神経回路及び神経細胞は同定されており,RPeD11 と名付けられた神経細胞が殻引込み行動を制御することが知られている.また筆者らは,陰影に対する殻引込み行動の神経機構として,1)眼と触角と足を除いたセミインタクト標本のRPeD11 において,光消灯により誘発される皮膚光受容器を起源とするEPSP 様の電位変化が記録されること,2)外套膜の皮膚光受容器が陰影を検知し,単シナプス性の化学シナプスを介し,殻引込み行動に関与する神経細胞RPeD11 に入力を行うこと報告した. この陰影に対するRPeD11 における電気生理学的な応答を,ナイーブ動物と侵害性刺激提示動物で比較したところ,侵害性刺激提示動物では,静止膜電位レベルの脱分極,膜抵抗の上昇,陰影提示により誘起される脱分極の持続時間の延長が観察された.今回新規に観察されたRPeD11 における膜電位の陰影応答は,モノアラガイの陰影反射行動を直接制御し,連合学習の中心的役割を果たす細胞レベルでの機構である可能性が考えられる.
- 2011-03-31
著者
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