フェリーモニタリングに基づいたシリカ欠損仮説の検証(シンポジウム:世界の沿岸海域における環境と生態系の長期変動)
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
世界的に,次のような「シリカ欠損仮説」が議論されている.すなわち,ダム湖などの人為的停滞水域が増大しそこに窒素(N),リン(P)が負荷されると,風化溶出で補給されるケイ素(Si)が陸水ケイ藻に吸収され,海域へ流下する分が減る.このため,海域でSiを必要とするケイ藻類(概ね無害)よりも,Siを必要としない鞭毛藻類(潜在的に有害)のほうが有利になるというものである.この仮説の検証のため,瀬戸内海でフェリーを使ったDIN,DIP,DSi(N,P,Siの溶存態栄養塩)の長期モニタリングを行うとともに,琵琶湖-淀川水系の既存資料,瀬戸内海の種別赤潮発生件数資料の解析を行った.その結果,琵琶湖(仮想大ダム湖)からのDSiの流出量は流入量の20〜30%に減っていること,瀬戸内海のDIN,DIP,DSi分布はともに東高西低であるがDSi/DIN相対比は東で低いこと,総赤潮発生件数(ケイ藻類赤潮+鞭毛藻類)も東高西低であるが大阪湾北東部(淀川河口近傍)は常時ケイ藻類赤潮で占められることがわかった.この結果の解釈としては,i)淀川経由の栄養塩流入と京阪神地区からのNおよびPの負荷が大きいが,琵琶湖のSiシンクが瀬戸内海東半のDSi相対比を下げていること,ii)このため総赤潮発生件数も東高西低であるが,淀川河口近傍においてはDSi/DIN相対比が低くてもDSi絶対量の補給があるためケイ藻類にとって有利な状況となること,iii)結果として,鞭毛藻赤潮はDSi/DINがある程度低くてしかもケイ藻卓越域の外である播磨灘付近で多く発生することが挙げられる.もちろん有害赤潮の発生がすべてシリカ欠損で説明できるものではないが,少なくとも富栄養化現象等の議論にN,PだけでなくSiの要素も加えるべきであるといえよう.
- 2005-08-26
著者
関連論文
- 流入栄養塩比の変化による内湾・大陸棚域の生態系変質の可能性
- フェリーを利用する海洋観測プラットフォームの開発及び日本近海における有害化学物質による海洋汚染観測(海と空と島の環境分析)
- フェリーモニタリングに基づいたシリカ欠損仮説の検証(シンポジウム:世界の沿岸海域における環境と生態系の長期変動)
- 定期フェリーを利用した海水中有害化学物質の観測
- 石西礁湖における流動数値シミュレーション
- システムダイナミクスツールによる海洋生態系モデルの構築
- 定期航路利用による海洋環境変動の高頻度モニタリング
- 陸水域におけるシリカ欠損と海域生態系の変質