紀伊水道の水温,塩分,密度フロントの相互関係と維持機構について
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
紀伊水道の伊島を中心とした南北50kmの範囲のいわゆる紀伊水道フロントの水温,塩分,密度各勾配の相互の依存関係の周年変化を調べた.塩分差ΔSと水温差ΔTとの相関は悪いが,塩分差ΔSと密度差Δσ_tとの相関は非常に高い.冬季の一時期に現れるごく少数の場合を除くと,冬季でも紀伊水道フロントは密度勾配を伴っているものが多いことが分かった.これらの結果から判断して,塩分勾配の小さい水温フロントと冬季に現れる水温,塩分勾配とも大きい少数のフロントを除くと,多くの場合,フロントの北側の海水密度は南側よりも小さくなっており,フロントの北側を西進する地衡流的な流れが存在していると考えられる.東進する地衡流的な流れを伴うのは,ΔSが小さい場合と,冬季に大きいΔSが作る密度勾配を打ち消すような大きいΔTが作られる場合であるが,Δσ_tの大きさから考えて,流れそれ自身はあまり強くはないと考えられる.紀伊水道の渦流の消長や河川水の流出量の変化に伴って,ΔSは大きくなったり小さくなったりしながら変化しているが,1〜2月の真冬になって強い海面冷却が生じると,Δσ_t≒0となる水温勾配が出現するようになる.このとき,それまで卓越していた密度勾配に伴っていた地衡流が弱くなっているので,この水平流に代わって,フロント部での沈降流を伴う鉛直循環(沈降流)が塩分勾配を維持するようになると考えられる.従来の数値モデルの中で再現されたプロセスは,冬季紀伊水道フロントの形成過程を再現したものではなく,周年存在する塩分フロントを維持するための冬季の一時期の機構の一つを再現したものであると考えるべきであろう.
- 日本海洋学会の論文
- 2001-02-23