ブラジル,マデイラ河産,サルダナパルスミイロタテハ雌の変異種について
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概要
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中南米に広く生息するサルダナパルスミイロタテハは,前翅赤色部の広がりに基づいて7亜種に分類されている.亜種内では赤色部の範囲はさしたる変化を示さず,雌雄差もなく安定している.同じ赤色系のアミドンミイロタテハ,ナルキサスミイロタテハには,前翅起始部が青色を示す亜種が存在するが,サルダナパルスミイロタテハには全く報告がなかった.これはその変異種の報告である.変異種は,1992年ブラジル,マデイラ河のノバオリンダドノルテで採集された一頭の雌で,写真1は表面を示す.前翅長46mm.前角下部5,6,7室に明瞭な白色斑を認める.前縁から外縁にかけて太い赤色帯が斜めに横断し,後角に達している.白色斑と赤色帯にはさまれた黒色帯は狭く,6室には青色粉が散在する.起始部,中室,1a,1b,2室にかけて青色が広がり,赤色帯と接している.1b室起始部には一条の淡青色の輝線が認められる.後翅には,黒色の基調の中に中程度の青色斑を認める.青色斑は,2,3,4,5室と中室外縁にわたって広がり,後翅外縁との距離は9から10mmである.写真2は裏面を示す.前翅前角部黒色は淡く,灰色に近い.その内側に白色帯が2室外縁まで伸びている.前翅の大部分は桃色で前角下部の白色帯まで広がっている.白色帯の内側に通常認められる黒色帯は消失し,二本の黒線のみが4室まで伸びている.下縁には黒色が1b室3分の2まで弓状に認められる.後翅中央の黒色模様は,7,8室では湾曲した棒状になっている.本変異種の起源としては, 1)前翅起始部を赤色にする遺伝子が突然変異して青色にする遺伝子となった, 2)ナルキサスミイロタテハとの自然雑交によるF_1,の2つの可能性が浮かぶ.後者については,裏面を見る限りサルダナそのものであり,前後翅ともにナルキサスの特徴が全く認められないので, F_1とは言えないと考える.他の赤色系ミイロタテハに前翅起始部が青色を示す亜種が知られていることから,赤色と青色の遺伝子は,突然変異によって変換可能とする説は,あながち的はずれとはいえない.また,種の進化は突然変異と自然淘汰によってなされる.これらから,この雌はサルダナパルスの突然変異種である可能性が濃厚である.
- 日本鱗翅学会の論文
- 1993-08-30
日本鱗翅学会 | 論文
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