ブラジル,サンタレン産,ナルキサスミイロタテハ,タパジョース亜種(鱗翅目,タテハチョウ科)にみる前翅赤色帯の広がりの雌雄差について
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概要
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ブラジル,サンタレン産のナルキサスミイロタテハ,タパジョース亜種45頭を対象に,前翅起始部赤色帯の広がりを次のように5群に分類した.1群;第3翅脈まで,2群;第2,3翅脈の間まで,3群;第2翅脈まで,4群;第1b, 2翅脈の間まで,5群;第1b翅脈の下まで.各群の頭数は6,10,10,8,11であった.雌23頭は各々6,8,3,1,5頭,雄22頭は各々0,2,7,7,6頭であった.1,2群を合計した比率は雌が雄に比べて有意に高く(61%対9%, p<0.001),反対に4,5群を合計した比率は雌が雄に比べ有意に低かった(26%対59%, p<0.05).前翅角部の青色斑の出現頻度は雌が雄に比べ有意に低かったが(30%対82%, p<0.005),前翅起始部赤色帯の広がりの程度とは関係がなかった.前翅赤色帯が中室全てを覆うまで広がった例は1,2,3群には皆無で, 4群の25%, 5群の全例に認められた.第2翅脈までしか赤色帯の広がりがなくて,尚かつ中室全てを赤色帯が覆うという, A.n.t.f.semidubiosa Michaelの基準をみたす例は45頭中皆無であった. 5群の11頭の内,7頭は赤色帯中央部にA. sardanapalus lecerfi Lathyのような切り込みがみられたが,残る4頭には認められず, A.n.t.f. dubiosa Fasslとは異なる,新しい変異型と考えられた.本研究により,ブラジル,サンタレン産のナルキサスミイロタテハ,タパジョース亜種には前翅起始部赤色帯の広がりの変化が著しいことが明らかにされた.雌雄に特異的な赤色帯の広がりはなく,その比率だけが雌雄間で有意に異なっていた.前翅角部の青色斑の出現頻度も雌雄間で有意に異なっていた.アマゾン北岸に生息するA. n. narcissus Staudingerには前翅赤色帯の広がりに変化がなく,雌雄差も認められない.同じ北岸のベネズエラに生息するA. n. stoffeli Mast de Maeght & Descimonの雌には後翅に青色斑が出現せず,雄とはまったく異なるが,ともに前翅赤色帯の広がりには変化がない.前翅赤色帯の広がりを支配する遺伝子がアマゾン北岸に生息する2亜種では安定しているが,南岸に生息する本亜種では安定していないと思われる.そのことから,本亜種は前翅赤色帯の広がりを支配する遺伝子が純化していない,まだ分化途中の若い亜種と考えられる.
- 日本鱗翅学会の論文
- 1993-03-30
日本鱗翅学会 | 論文
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