幼生期形態に主眼を置いたアゲハチョウ科の分類
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概要
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アゲハチョウ科について従来行われてきた分類は,主として成虫の形態によるものであった.分類の完全を期するためには幼生期の形態を研究することが重要であるが,広く世界に分布する異なった属の幼虫を入手することの困難さがこの研究を阻んでいた.幸いに,筆者は海外にその材料を求める機会に恵まれ,2,3をのぞいてほとんどの属についてその幼生期の形態を調査した.本論文では,各属について卵,1齢幼虫,2〜終齢幼虫,蛹の形態,成虫の顕著な特徴,幼虫の食草などについて記述し,必要に応じて図示した.さらに幼生期の資料をもとに,従来の分類に検討を加えることができた.その結果,次のような法則性のあることを見いだした.1.1齢幼虫の外部形態が単純なものは原始的な種であり,複雑なものは進化した種と考えられる.すなわち,原始的な種では体上の一次刺毛数が少なく,進化するにしたがってその数を増す.しかし,頭部刺毛にはこの法則は適用できない.また原始的な種では体上に突起もみとめられない.2.1齢期から終齢期までの全幼虫期間を通じて,形態的変化の著しいものは進化したものと考えられる.3.1齢期から終齢期までの全幼虫期間を通じて,形態的変化の速度の速いものは進化したものと考えられる.4.食性については,ウマノスズクサ科を摂食するものが最も原始的で,次いでミカン科,モクレン科,クスノキ科の順に進化する.結論として,従来のアゲハチョウ科の分類に対する新解釈として,1.Cressida, Euryades両属を最も原始的とする説を否定し,Luehdorfia, Parnalius属を最も古いものとする.2.従来,幼生期が未知であったため,分類学的地位の定まらなかったMeandrusaをアゲハチョウ族に属せしめ,Menelaides属よりも進化した位置を与える.3.従来,その位置に関して定説のなかったGraphium属は,あらゆる観点から最も進化したものであることを確認する.
- 日本鱗翅学会の論文
- 1984-01-20
日本鱗翅学会 | 論文
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