ミノガ科進化の過程における習性と形態についての概観(創立15周年記念論文集)
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
これまで,ミノガ科の系統論を展開するための基木的な方法として,この科の蛾の形態と習性の相互関係とその発展について論じた.資料や考察の点で不完全な面が著しく,それらは今後の問題として残されるが,全体を通じて習性と形態をできるだけ統一して考えようと努力した.この試諭の中から決のような事項があきらかになった.1 ミノガ科の系統発生を研究する場合には,形態の研究と共に生活史を問題にすることによって,両者の統一の中から形態の研究だけでは達し得ない系統像の解明や進化要因論への接近がなされた.2 ミノガ科の♀の形態と習性にみられる発展段階とその序列α→β→γ→δが想定され,それらの段階はミノガ科全体にみられる発展のための必然性により進化してきたものであると考えられる.それ故に,異なる系統の間に平行現象として♀の諸発展段階がみられる.3 翅,脚,産卵器官等の退化現象については,諸器官の不使用が生活上の必然性による習性の転換の結果として起り,器官の不使用がその器官の機能の弱まりと器官の退化をもたらした,という一連の退化の過程の存在を裏付ける歴史性が現存のミノガの個体発生や種間の相違の中に見出される.4 ある一連の習性の変化過程においては,γ段階よりδ段階への静止状態の変化のように,習性転換による不使用の結果としての器官の機能の弱まりと構造の退化の過程がある段階に達すると,この器官の構造の退化が一連の習性の次段階への発展をひきおこしたことがあったと考えられる.
- 日本鱗翅学会の論文
- 1962-08-20