リサイクル産業の発展と重化学工業地帯の再生 : 環境産業と既存重化学工業の集積との連関を中心に(<英文特集>変化する日本の産業集積をめぐって)
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概要
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北九州は日本で最も古い工業地帯のひとつである.国内の他の重化学工業地帯と同様に,そこでもオイルショック以降の構造不況の影響を受けて,長期間にわたって地域経済の停滞が続いてきた.しかし1990年代後半以降,北九州においては,既存の重化学工業との強い連関の下に,リサイクルビジネスの著しい成長が観察されている.本稿では,北九州におけるリサイクル産業の発展が,既存産業(重化学工業)の集積とどのような連関とつながりを持ちながら進行しているのかについて考察する.1990年代以降に活発化する産業集積をめぐる議論では,機械関連業種における中小企業を中心とする産業集積に話題が集中しがちである一方で,かつて集積をめぐる焦点のひとつであった重化学工業のそれについては等閑視されている.本稿は,等閑視されていた重化学工業の産業集積に改めて光を当て,北九州におけるリサイクル産業の著しい成長に対してその産業集積が有する産業連関上の意義を解明する.これによって,産業集積をめぐる議論に対して新たな視点を付加することを試みる.リサイクルビジネスは,原料(廃棄物)・処理技術・再生品の市場などの点で,既存の重化学工業と生産連関のみならず,種々の側面で強い連関とつながりを有している.ここで特に重要となるのは,廃棄物に関する情報である.一般に,廃棄物の排出量,種類,価格などに関する情報は,廃棄元企業の生産関連情報(原材料の構成,技術水準,生産量など)に密接に結びついていることから,開示されることが稀である.そのため,そうした情報は一般商品市場に出回ることが少なく,したがってその取得には大きなコストが必要である.しかし,従来から廃棄物(副産物)のやりとりが活発に行われてきた重化学工業地帯では,こうした情報が比較的得やすく,その取引コストは相対的に小さくなる.このことが,リサイクルビジネスの立ち上げはもちろん,その後の当該産業の成長・発展にも有利に作用している.つまり,北九州にあっては,既存の重化学工業は,リサイクル産業という新たな成長分野の創出,さらにその後の発展において,生産連関だけでなく,原料(廃棄物・副産物)供給および再生資源の需要という情報の連関においても,重要な意味を持っているのである.またリサイクル産業の発展に伴って,こうした連関とは逆方向の連関も展開されている.製鉄業やセメント工業など既存の重化学工業の動脈部分においても,再生資源や廃棄物の積極的な利用が進んでおり,したがって,素材産業そのものが「リサイクル産業」の役割を担いつつあるのである.こうしたリサイクル機能の集積は,既存の重化学工業の活性化に寄与するだけでなく,空洞化しつつある製造業の国内回帰の可能性を高める上でも重要な意義を有している.環境意識の高まりの中で,メーカーは廃棄物を適切に処理することが求められているが,これは製造業の大きな課題であるとともに,ただでさえ高い国内コストを引き上げる要因ともなってきた.しかし,地域内における廃棄物の適切な処理およびリサイクルが比較的容易であるということになれば,廃棄物処理に課題を抱える企業・産業の誘致に対して大きな誘因になる.したがって,北九州におけるリサイクル産業の発展は,これまでのような単なる生産条件だけではなく,廃棄物を適切に処理し得るという条件からも,企業の立地,さらには産業の新たな集積にとって重要な意味を与えはじめている.さらに,リサイクル産業の成功は,古い工業地帯に特有な硬直的な企業間関係に変化をもたらしている.環境をキーワードにした新たな企業間リンケージやネットワークが,従来の系列や企業グループ内に限定されていた取引関係の枠を超えて,構築されつつあるのである.
- 2005-12-30
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