ゴイシシジミおよびササコナフキアブラムシ個体群間の関係
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概要
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ゴイシシジミと食物であるアブラムシとの関係を明らかにするために,野外における調査と実験を行なった.調査地は茨城県つくば市にある道路と用水路に挟まれた細長いアカマツ林である.林床にはアズマネザサが生えており,ゴイシシジミの食物となるササコナフキアブラムシが寄生している.調査は1979年春から1982年秋まで行なわれた.週に一度の割でゴイシシジミ成虫の発生状況を記録した.また,アブラムシについては春から秋にかけては週に一度の割合で,冬期は月に一度の割合でコロニー数を調査した,このとき確認できたゴイシシジミの幼虫,蛹,ゴイシシジミ以外のアブラムシの捕食者についても記録した.1983年の夏期には調査地内の観察のし易い場所を選び,アブラムシの多い時期と減少した時期でのゴイシシジミの幼虫の生存について追跡調査を行なった.さらに1984年に調査地の一部に,ゴイシシジミ除去区と非除去区をもうけゴイシシジミによるアブラムシへの捕食圧の検討実験を行なった.室内実験ではササの鉢植えを用い,アブラムシの季節ごとの増加率を調べた.チョウの個体数およびアブラムシの量は季節的に大きく変動し,毎年同様の変化のパターンを示した.越冬したアブラムシは3月頃より徐々に増加し始め,5-6月に急激に増加した.6月下旬にいったんピークに達するがその後一時減少し,再び増加して7月に最大となった.8月には急にその量は減少し9月にはピーク時の数十分の一程度にまでなる,その後少し増加し越冬に入った.冬期には量はほとんど変化せず翌春まで推移した.一方,ゴイシシジミは第一世代の成虫は5月より出現するが,個体数は少なかった.第二世代の成虫は6月下旬から7月上旬にかけて出現した.そして7月上旬から中旬にかけて最多になった.その後,成虫は急に増加し,8月上旬にはその年の最多になった.しかし,8月中に急激に個体数は減少していき,9月には少数の個体が見られるだけとなった.ゴイシシジミの幼虫の個体数は成虫の増加にともなって変化し,7月から8月に最も多く,アブラムシを激しく捕食した.9-10月になるとほとんどの個体は2齢で越冬に入り,アブラムシへの捕食は停止した.ゴイシシジミ以外にアブラムシの捕食者として,ニセマイコガ科の一種,ヒラタアブ,ヒメカゲロウの幼虫を確認した.ガの幼虫が6月にアブラムシの量にやや影響を与える以外は,これらのアブラムシに対する捕食圧は極めて小さかった.ゴシシジミ幼虫の生存追跡調査より,アブラムシの多い期間には高い率で成虫まで生育するものと考えられた.一方,アブラムシの少ない期間では孵化した幼虫の内,成虫まで生育した個体はほとんどなかった.アブラムシに対する捕食圧を確かめる実験では,ゴイシシジミ除去区では8-9月でもアブラムシは増加した.一方,非除去区ではアブラムシは急激に減少し,ゴイシシジミの幼虫によるアブラムシに対するする捕食圧はかなり強力であると結論できた.アブラムシの個体群の増加率は5-6月が一番高く,初夏の急激な増加を可能にすると考えられた.以上の結果から,本調査地におけるゴイシシジミとアブラムシの関係は次のように成り立っていると考えられる.越冬したアブラムシは3月頃より増加を始め,またゴイシシジミの幼虫もアブラムシを捕食し始める.しかし4-6月にはゴイシシジミの幼虫の個体数は少ないためアブラムシに対する捕食圧は小さい.一方,アブラムシは5-6月にその増加率が高く,急激に個体数を増加することが出来る.アブラムシはその後いったん蛾の幼虫の捕食により減少するが,再び増加し7月に個体数は最大になる.ゴイシシジミは徐々に個体数を増していき,第三世代の幼虫は個体数も多くアブラムシを激しく捕食するため,8月にはアブラムシは急激にその数を減少させる.アブラムシが減少するとゴイシシジミの幼虫は食物不足に陥り,生育できない個体が増えると考えられる.このような理由によりゴイシシジミの個体数は8-9月に急に減少する.9月になるとゴイシシジミの幼虫の多くはアブラムシの捕食を徐々に減らし越冬に入る.これによりアブラムシは捕食から解放され,食い尽くされずに残ったアブラムシは9-11月に少し増加し冬を越す.調査地で毎年観察された両種の個体数の大きな変化はこのような両種の関係で生じると考えられる.この関係が成立するためには,春から初夏にかけてのアブラムシの高い増加率と秋にゴイシシジミ幼虫が越冬のため捕食を停止することが重要であると考えられる.本調査地はゴイシシジミの生息地としては規模が大きく,アブラムシが食い尽くされずに毎年部分的に残った.しかし,よく見られる生息地は規模が小さく,1シーズン中にアブラムシの食い尽くしによる生息地の消滅が頻繁に見られる.ゴイシシジミは不安定な食物に依存し,生息地の消滅と出現を繰り返しながら個体群を維持していると考えられる.
- 1997-06-15
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