被買収企業の存続期間を考慮した買収価値の評価
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概要
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相当な投資を伴うことの多い企業買収の妥当性を判断する上で,買収投資の経済性を評価することは著しく重要である.そのために,さまざまな財務手法が開発されてはいるが,実務に十分活用されているとはいえず,あくまでも判断材料のひとつにとどまり,定性要因をより重視した恣意的な判断に依存しているのが実情である.これらの財務手法の利用を妨げているのは,いずれも買収評価の条件を単純化しすぎるために,現実の買収条件を的確に反映できないためである.さらに,その理論的な限界を曖昧にして利用されることも多く,実際の買収交渉における争点と買収評価との関連性をわかりにくくしているのである.企業買収の形態を契約成立後の組織形態によって合併と買収の二つに大別すると,わが国の案件は,ほとんどの場合は契約成立後も被買収企業を存続させる買収の形態をとっている.ところが一般に,買収評価の手法として,理論的に最も合理性が高いといわれるDCF法による計算プロセスを考察してみると,実は被買収企業の資本構成を一定とする状況を前提とした評価方法であることがわかる.被買収企業を存続させる場合にそのような前提を設けることは現実のビジネススにおいては適切でないことも多く,同様の計算プロセスを適用すると誤った経済性評価に基づいた意思決定が行わることも少なくない.そこで,本研究では,買収成立後に被買収企業を存続させる場合を考慮した買収価値の評価方法を検討する.まず,第1節において合併・買収の実施プロセスと買収価値の評価方法の大要を整理し,後節におけるモデル構築のフレームワークとする.第2節では,DCF法による買収評価方法を整理し,被買収企業が保有する余剰資金運用合計の時間的価値が逓減することによる問題点を考察する.第3節では,買収取引におけるキャッシュフローと資金プールに着目し,買収評価を評価するための財務モデルを構築するとともに,数値例を展開して実務的にも容易に適用できることを示唆する.本方法論は,以下の特徴を有することで,買収評価の有用性を高めようとするものである.第一に,被買収企業を存続させる期間を考慮して,買収企業にとっての買収投資の経済性を理論的に正しく評価するための計算手法を構築する.第二に,配当政策等の利益回収の方法によって買収価値がどのように変化するかを評価する.第三に,計画財務諸表(P/L,B/S,C/F)のシミュレーションをベースにして買収価値を算定するため,経営者にとって理解しやすい評価内容を提供する.
- 日本管理会計学会の論文
- 1997-03-16
著者
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