Erebia属の原色図説(II)
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概要
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我われは多年にわたって,蝶類特にErebia属の分布と分化について興味をもってきた。例えば日本,ロシア,その他の分布生息地へいき現場で採集あるいは生態の観察をおこない,また入手した標本や文献等から多くの知見を得るなどしてきた。今回これらのことを集約して解説することを試みた。1.Linne以来の本属の由来と独立性については,Warren(1936)により明確な定義が与えられ,我われは先ずこの経緯をふりかえってみた。Warrenによれば,Erebia属は雄性交尾器の特徴により近縁のSatyrus,Hipparchia,Callerebia,ParalasaおよびBoeberiaなどの各属と区別される。Warrenは69種を15の亜属的なグループに分けたが,彼以降にそれぞれの種で下位のタクサが種として扱われるなどして,我われはErebiaの種数を89と考えた。2.この89の種について,それぞれの亜種の記録,分布・生態などの知見を解説した。また,現在我われが入手し得たかぎりにおけるすべての種(E.graucasicaを除く総計88種,262個体)を12図版に示した。とくに全北区的にみたばあいアジア大陸における情報は少ないので,これの収集と公表に努めた。3.Erebia属各種の幼虫の食草が各地で調べられており,多くの報告が発表されているが,それらによるとほとんどがイネ科Gramineae食であり,Digitaria,Calamagrostis,Poaなど幾つかの属にわたっている。これについでスゲ科Cyperaceae Carex spp.さらにイグサ科Juncaceae Luzula,Juncus属などがあげられる。4.Warrenは「雄の発香鱗(As)の観察を無視することは分類学上大きな損失である」と述べたが,Erebia属におけるAsの詳しい観察・研究はWarrenのあとはほとんど存在しないようである。我われは今回,走査型電子顕微鏡(SEM)によっていくつかの種類で観察したのでこれを発表した。Erebia属のAsのSEM観察例の報告はおそらく初めてのことであろう。5.各種の分布状況を表(Tab.1)に示した。発香鱗のある種(species bearing As)とそれのない種(species without As)を比較したばあい,前者のほうが一般的に新しい形質を獲得した種と考えられ,このような種が多いヨーロッパのアルプスは分布の中心としては二次的であり,シベリアのアルタイ,サヤン山脈のほうに発香鱗のない種が多いことから,シベリアのほうがErebia属の分布発祥の中心であると考えている。この考えは木暮(1959)以来のものである。6.種の問題(Species problem)に対する取り組み,分布調査,生態観察,また,形態学的研究その他について多くの努力が今後積み重ねられて,Erebia属の全ての科学的情報と知識を体系たてた"Erebiology"が確立されることを念願している。
- 1993-07-10
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