証券化と銀行組織の経済機能
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概要
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本稿では,銀行のビジネスモデルが,伝統的な「組成・保有型」モデルから,証券化を利用した「組成・分売型」モデルへと変化したことが,銀行組織の経済機能をどのように変容させたのかについて理論的に考察する。まず,第1節で,アメリカのサブプライムローン問題と金融危機の経緯を概観し,第2節で,金融取引形態の定義付けと分類を行い,証券化と金融取引形態の変容について概観する。銀行の経済機能に関する理論的研究の多くは,銀行が金融仲介機能のすべてを一手に引き受けていたこと,すなわち「組成・保有型」モデルを前提にとした研究である。そこで,第3節で,組成・保有型モデルを前提とした銀行の経済機能に関する既存の理論的分析をサーベイし,その内容を再考する。第4節では,第3節の議論を踏まえて,証券化を利用した「組成・分売型」モデルの発展により,銀行の経済機能に関する既存の理論的研究の内容がどのように修正されるのかを考察する。本稿の主な結論は以下の通りである。伝統的に,銀行の存在意義は,金融取引から生じる「不確実性」,「情報の非対称性」,および「契約の不完備性」という3つの問題から生じる取引費用を低減し,効率的な資金配分を実現する点にある,と考えられていた。しかし,近年起きたような,「組成・保有型」から証券化を利用した「組成・分売型」への銀行のビジネスモデルの変化は,伝統的に銀行が果たしてきた経済機能の内容を大きく変容させたと同時に,リスク負担機能や情報生産機能,あるいは資金調達手段としての銀行貸出の優位性など,元来,銀行が比較優位を持つと考えられてきた経済機能の有効性の低下を招いたといえる。とりわけ,証券化を利用した「組成・分売型」モデルの発展により,本源的証券のリスクを負担する担い手が銀行から投資家に移ることとなり,今回の金融危機のようなシステマティクな集計リスクを負担する経済主体が不在になるという問題が生じている。経済の中で集計リスクを吸収するためには,政府や中央銀行によるマクロ・プルーデンス政策の有効性が,今後重要となることを指摘する。
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