ガスクロマトグラフィーによるナタネ(Brassica napus)種子1粒中のエルカ酸含有量の測
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概要
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エルカ酸(cis-13-docosenoic acid)は、十字花植物に属するナタネ(Brassica napus)の種子油中に含有される特徴的な脂肪酸である。1970年代初頭まで在来種(高エルカ酸ナタネ)は行政の規制を受けずに各国で食用とされていたが、動物実験の結果からエルカ酸がヒトの心臓に悪影響を与えることが示唆され、品種改良(低エルカ酸ナタネあるいは零エルカ酸ナタネ)が行われてきた。栄養学的また植物育種学的研究としてナタネ種子油に含有されるエルカ酸を測定するために、ガスクロマトグラフィー(GC)を用いた様々な方法が開発されてきた。一般的な分析方法は、(1)種子からの油の抽出、(2)脂肪酸メチルエステル(FAME)への誘導体化、(3)GCによるFAMEの分析、の3行程があり、特に油の抽出には、繁雑で長時間の作業を余儀なくされる。これに対して我々の方法では、ナタネ種子1粒を半分に切断後ガラス製試験管に取り、ガラス棒で粉砕してヘキサン2mLを加える。ここに2mol/L KOH/メタノール0.2mLを加え、2分間ボルテックスミキサーで激しく攪拌後静置しFAMEをヘキサン溶液として回収する。このヘキサン溶液をGC分析に供する。今回、全てのナタネ種子は、各々の試料から均一な種子10粒を選んで1粒ずつ分析した。高エルカ酸ナタネとして、インド産種子では分析した1粒中のエルカ酸含有量が10粒とも43-50%の範囲に入り、種子間における差はほとんど認められなかった。しかし、中国産種子とドイツ産種子のエルカ酸含有量は種子間で変動し、最大値と最小値で約20%の差があった。零エルカ酸ナタネとして、オーストラリア産種子とカナダ産種子では、エルカ酸は全く検出されなかった。低エルカ酸ナタネとして、ニュージーランド産種子は10粒のうち3粒にはそれぞれエルカ酸含有量が10%を越えるものと約3%のものが存在したが、残りの7粒にはエルカ酸は全く検出されなかった。またスウェーデン産種子は10粒のうち2粒はそれぞれエルカ酸を約20%と約6%含有していたが、残りの8粒にはエルカ酸は全く検出されなかった。これらの低エルカ酸ナタネのエルカ酸含有量の分析値を平均すると約3%であった。上記の低エルカ酸ナタネのデータは、これまでの我々の固定概念を覆した。すべての種子が一定のレベルでエルカ酸を含有しているのではなく、ほとんどの種子はエルカ酸を全く含有していないが、わずかの種子が高濃度にエルカ酸を含有しているので、その結果として供試した低エルカ酸ナタネの種子油中エルカ酸含有量は平均して約3%となる。この値は、FAO/WHOが推奨する食用ナタネのエルカ酸含有量(5%以下)の範囲内である。現在も植物の品質改良は、植物研究の開発部門で継続されている。Downey and Harveyによって「半粒種子分析法」(半分の子葉が脂肪酸組成の分析に供され、残りの半分の子葉を含む胚が栽培される)が開発されて以来、この技術は食用には低エルカ酸ナタネあるいは零エルカ酸ナタネを育種するため、また産業用には高エルカ酸ナタネを育種するために利用されてきた。従って、エルカ酸定量の迅速化と簡便化は非常に有効である。今回、我々は、油を抽出せずに種子組織から直接メタノリシス法でFAMEを調製し、これを高速GCにかけるという分析方法を利用した。その利点は、1粒の分析が10分以内に終了できるところにある。
- 日本食品化学学会の論文
- 2004-12-30
著者
-
山本 公平
大阪府立看護大学総合リハビリテーション学部栄養療法学専攻
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木下 明美
大阪府立看護大学総合リハビリテーション学部栄養療法学専攻
-
宮谷 秀一
大阪府立看護大学総合リハビリテーション学部栄養療法学専攻
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芝原 章
大阪府立看護大学総合リハビリテーション学部栄養療法学専攻
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