疫学的ならびに保健管理上の立場から見た循環器検査法の評価に関する2,3の知見について
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概要
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1.一集団全員を対象とした循環器検診2903名の成績より,若年者にも比較的低率であるが高血圧が存在すること,血圧は加令ときわめて密接な関係があることが注目された。保健管理上の立場からは高血圧に関しては30才代後半より対策を強化することが適当であると思われる一方,若年者高血圧についても配慮する必要があると思われた。2.最大血圧99mmHg以下の比較的血圧が低いと考えられるものの出現率は年令にかかわらずごく低率であった。3.交通従事員のごとく日常普通に働らいているものの集団を対象とした循環器検診における問診の価値については参考程度におくべきであろう。4.心胸比測定は高血圧と関連して有用な検査法と考えられる。5.心電図所見の分布をみると,頻脈,徐脈,QT延長,P波異常,房室ブロック,脚ブロックなどの有所見率は低率であり,高電位差・ST変化・T変化の有所見率は比較的高率にみられた。徐脈・電位差のRV_1≧0.7mV・低電位差・不完全右脚ブロックの所見を除き,高血圧群は正常血圧群より有所見率が高くみられた。特に電位差・ST変化・T変化は頻度も高く高血圧性疾患と関連して重要であると認められた。6.血清総コレステロールは20才代では30才以後に比較してやや低率を示した。体重別観察では体重の大なるほど血清総コレステロール値は大であった。最大血圧109mmHg以下では血清総コレステロール値はやや低率であったが,それ以上の血圧では差はみられなかった。7.交通従事の一集団における疫学的調査の結果,X線写真上の心臓形態異常は0.3%,聴診異常(Levine III, IV, V, VIの収縮期雑音および拡張期雑音)は1.4%,尿蛋白陽性率は7.2%,尿糖陽性率は3.7%梅毒反応陽性率は2.2%の成績を得た。8.上述の一般勤労者集団2903名を4年間観察して循環器疾患の発症休業者13名を得たが,高血圧群よりの発症が多かった。この13名は単一検査方法で選り分けることはできなかったが,血圧,心臓形態,心胸比,心雑音,心電図,血清総コレステロールおよびの問診のいずれかに所見ありの成績を示した。この点より保健管理上にも総合検査が最も合理的であることが認められる。9.発症前血圧値と脳卒中・心筋硬塞・狭心症発症との関係を検討したが,その結果脳卒中では約8割程度が発症前高血圧を示したが,心筋硬塞・狭心症では発症前正常血圧を示すものがかなり高率であった。すなわち虚血性心疾患では血圧測定のみでスクリーニングするとかなり脱落してしまうことを示した。10.左室肥大の表現とみられる心電図判定基準のRV_5またはV_6+SV_1≧3.5mV, RV_5またはV_6>2.6mV, RV_5またはV_6+SV_1≧3.5mVかつRV_5またはV_6>2.6mVは,高血圧群に多くみられたが,RV_5またはV_6+SV_1≧3.5mVの高電位差基準ではその出現率がむしろ若年者にやや多く,またやせた血圧の低い傾向のものにもかなり見いだせるので,左室負荷そのものの表現以外に年令および肥満度,特にやせの影響が相当関与しているものと考えられた。