「医療福祉経済学」考(<特集>医療福祉行政と医療福祉経済)
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概要
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周知のように,川崎医療福祉学会では,学会特集号の発刊やシンポジウムの開催等を通して,「医療福祉」という概念の整理や領域の明確化,さらには「医療福祉学」という新たな学問分野の構築に向けた取り組みをしてきた.本稿の目的は,こうした当学会の取り組みを念頭に置いたうえで,医療福祉の領域を「経済学的視点」から捉え,その意味や問題点あるいは課題について考えることである.そのため,本稿では,経済学の基本的問題の根底にある「資源の有限性」に焦点を当て,そこから生起する「効率性」,「公平性」,「持続性」の3つのレンマを経済学的視点の座標軸に据え,医療福祉の領域を眺め直してみた.そこで,まず,我が国の医療福祉分野において経済学視点が必要とされるようになってきた背景を,経済成長や財政状況等のマクロ的動向から考察した.続いて,医療福祉分野にまで導入され始めた市場原理に焦点を当て,市場原理の有効性とその限界について経済学的分析を試みた.その結果,医療福祉分野への市場原理の導入は,「財政主導」あるいは「効率性」偏重の政策的意味合いが強く,目的や機能など医療福祉サービスの特性を配慮するならば,憂慮すべき政策選択であることが明らかになった.少子高齢社会にふさわしい「優しい福祉社会」を実現していくために,本稿では以下の提案をしている.すなわち,「効率性」のみならず,「公平性」や「持続性」を視野に入れたうえで,(1)哲学,法学,政治学,経済学,財政学等の関連領域の学際的研究を通じて,より広い視野に立った「医療福祉に関する価値基準」を再構築すること,(2)この価値基準に立脚した政策科学としての医療福祉学を確立し,社会保障政策の具体的な選択メニューを提示すること,(3)メニュー選択の際に有用な情報となる「資源の有限性」を示すシグナルとしての医療福祉サービス供給に関する費用構造を経済学が明確に把握すること,の3点である.
著者
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