地域的人口分布の変化の特徴を示すための定量的指標について
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概要
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この論文は,1980年にわが国においておこなわれたThe 24th International Geographical Congressに発表した報告を基礎として書かれたものである。ここでは,特に,地域的人口分布の時間的変化の特徴を定量的にとらえるために筆者が提案するいくつかの指標(人口分布変化指標)-このうちのいくつかは,すでに筆者が他の場所で提案したものである-を体系的に叙述し,その適用例を列挙した。ここに提案する指標は,まず,大きく,(1)第1指標群:人口分布の中心の変化に関する指標(2)第2指標群:人口分布の軸の変化に関する指標(3)第3指標群:人口の分布様式の変化に関する指標の3種類に大別される。第1指標群に属する指標としては,(i)人口中心(すなわち,人口分布の中心的位置)の移動距離δΓ (ii)人口中心の移動規模δΓ_p (iii)人口中心の移動方向W が,第2指標群に属する指標としては,(i)人口軸(すなわち,人口分布の軸の位置)の方向変化量A (ii)人口軸の方向変化規模A_p が,そして,また,第3指標群に属する指標としては,(i)人口集中性の変化量δΔ (ii)人口分布様式の変化量Δ_D が,それぞれ挙げられている。これらの人口分布変化指標の適用例としては,すべてわが国の人口に対する適用例を挙げた。その適用例においては,わが国の人口移動は,年齢別に見ても,わが国の純生産の中心(地域別純生産の重心)に向って生じていることや,わが国の人口分布が第2次世界大戦の期間において,急激に地域的集中性を弱めたりすることが,人口分布変化指標を用いて明確にとらえられることを示した。また,人口分布変化指標に関係する問題点も指摘した。そのうちの第1のものは,人口中心の移動距離δΓや移動規模δΓ_pの測定の際に,人口中心の指標として用いられ得る人口中心点(population center)は,やはり,δΓやδΓ_pの測定の際に人口中心の指標として用いられ得る人口重心(center of population)よりも,人口分布の変化に対して敏感性が低いという点である。実際,人口中心点をδΓやδΓ_pのための人口中心の指標として用いると,人口分布が変化しても,その変化がδΓやδΓ_pの上に定量的に反映されて来ない場合があるのである。ところで,このような人口中心点のもつ性質が,ある地域の中心的都市が安定的に存在し得る理由を示しているように思えた。いま,もし,ある地域の中心的都市が,その地域の人口中心点に出現するならば,その地域の人口がある条件-ごく,簡単にいえば,その中心的都市以外に分布する全人口がその中心的都市の人口よりも比較的小さいという条件-の下に変化しても,その地域の人口中心点は変化しない。したがって,その地域の人口中心点にあった中心的都市は,人口分布が変化した後においても,人口中心点の位置にあり,中心的都市として存続し得るのである。中心的都市が永続的に存在し得る理由が,この中心的都市が比較的安定的な人口中心点,あるいは,これに近い位置に出現する点にある,いいかえれば,中心的都市の適地が人口中心点,あるいは,これに近い地点であり,人口中心点は安定的であることからその適地も安定的である点にあることを示唆しているように思えた。第2のものは,人口分布の軸の決定に関する問題である。人口分布の軸は,種々の方法で決定される可能性があるが,ここでは,それを主成因分析(principal component analysis)の第1軸-地域的人口の位置を変量とみなすことによって得られる-によって示すことにした。しかしながら,この軸を決定するとき,人口の位置を緯度と経度を用いて表現するかぎり,主成因分析による人口分布の第1軸と第2軸は,実際の地図上では直交しない。その理由は緯度の1度の長さと経度のそれとは一般に互いに異っているからである。しかし,地球の表面が球面であるので,厳密に言って,実際の地図の上で直交する主成因分析の2軸を得ることは困難であるといえよう。したがって,ここでは,一般に主成因分析の第1軸のみによって人口分布の軸を表現することにした。各種の人口分布変化指標を実際の人口分布の解析に適用したところ,これらの指標がかなり有効な指標であることが知られた。
- 流通経済大学の論文
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