介護する意識とされる意識 : 男女差が大きいのはどちらの意識か(社会学部設立40周年記念特集)
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概要
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日本においては従来、高齢者の介護は家族の役割と考えられてきた。しかし1980年代から1990年代にかけて、家族外の専門家による介護サービスを利用したいと考える人がじょじょに増えていき、その増加は特に女性で顕著であった。これに対する「通常の解釈」は、「家族を介護することは負担の大きいことなので、介護を担うことが多い女性が、専門家による介護を求める」といったものである。つまり「専門家によるサービスを利用したい」という女性の意識を、介護する立場の意識と暗黙のうちに想定し、「家族を介護することを避けようとする女性」というイメージで解釈している。本稿では公表されているマクロ・データをもとに、3種類の介護意識、つまり「自分の介護」(介護される立場)、「親や配偶者の介護」(介護する立場)、そして「一般論」としての介護意識を比較した。その結果、(1)「自分の介護」つまり介護される立場としての意識においては、それを専門家に頼るか家族に頼るかに関して、男女で差があり、専門家を頼るという人は女性により多く、家族を頼るという人は男性により多かった。(2)それに対して「親や配偶者の介護」つまり介護する立場としての意識には、ほとんど男女差はなかった。(3)「一般論」としての意識は、「自分の介護」つまり介護される立場としての意識により近いものだった。これらの結果から、「専門家による介護を利用したいという人は、女性により多い」という事実は、「自分の介護」つまり介護される立場の意識として解釈されるべきであり、それを介護する立場の意識と想定した「通常の解釈」は適切ではないことがわかった。この結果をもとに、女性にとって介護は「労働」であるだけでなく「アイデンティティ」との結びつきが強いこと、また「通常の解釈」は、介護を「労働」ととらえる男性の視点に近いことを論じた。
著者
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