鉄代謝ホルモン「ヘプシジン」の急性心筋梗塞における動態
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概要
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ヘプシジン(Hepc)は最近発見された小ペプチドホルモンで,現在までのところ鉄代謝を制御する唯一のマスター因子とされている.過剰のHepcはその受容体であるフェロポルチンを介して消化管からの鉄吸収を阻害するとともに,血中および組織中の鉄を組織マクロファージに収容することで鉄回転を休止させる.Hepcは肝から恒常的に産生・分泌され,炎症に呼応してIL-6依存性に分泌の尤進が起こることで慢性貧血の主な原因となり,また他の原因による貧血・低酸素血症ではHepcの分泌抑制が起こることで鉄回転が元進し赤血球造血が促進される.有効な抗Hepc抗体の入手は困難であり,またELISA等の従来法によるHepcの測定の報告はない.われわれはプロテオミクス法によるHepcの半定量法を樹立して報告した.またラット心筋炎モデルを用いて,炎症反応性に心筋細胞からHepcが産生されることを示した.これは既知の内分泌的Hepc分泌以外に,心局所におけるHepcのパラクリン・システムが存在することを示唆する.そこで急性心筋梗塞患者13例でHepcの血中濃度を測定することにより,実臨床でのHepcの心臓での産生における虚血応答性を検討した.採血は入院時およびその後の2週間において行い,Hepcの2種のアイソフォームであるHepc25とHepc20をSELDI法により半定量し,CPK,IL-6等の血中濃度や,心筋梗塞からの経過時問との関連を調べた.肝におけるHepc分泌とは逆に,心筋梗塞後には虚血性のHepc血中濃度上昇が見られ,IL-6濃度と相関しなかった.Hepc20濃度は4日目に低下が見られた.一方の活性型アイソフォームであるHepc25の上昇は1週間程度続いた.入院時のHepc25濃度とエリスロポエチン血中濃度の間には正の相関があり,また経過中のCPK-MBの最高値と4日目のHepc25値の間に正の相関が見られ,Hepc25の心筋虚血に対する応答であると推測された.また7日目と14日目の測定値では,Hepc25とヘマトクリット値の間に正の相関が見られた.心筋梗塞後の1週間においては心におけるHepcの分泌が,また第2週目では肝におけるHepcの分泌が大きく影響していると推測された.心筋梗塞後早期のHepcの分泌は,虚血心での過剰の鉄を減少されることでフェントン反応によるROS生成を抑制し,心筋保護的に作用するパラクリン・システムを形成している可能性が推測された.
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