Alport症候群モデルマウスに対するHepatocyte Growth Factor(HGF)遺伝子を用いた長期間の遺伝子治療検討 : エレクトロポレーション法による反復HGF遺伝子導入の有効性について
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概要
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【目的】本研究では,Alport症候群モデルマウスにマウスHGFをエレクトロポレーションすることで反復遺伝子導入を可能とし,その有効性をより臨床応用に近い形で検討した.また,HGFの効果とTGF-β1との相互関係を明らかにするために,本モデルマウスの単離糸球体,ラットメサンギュウム細胞を用いて検討を行った.【方法】1)8週齢の野生型マウスとAlportモデルマウスの糸球体でのHGFとc-Metの発現を蛍光抗体染色と半定量的RT-PCR法で検討した.2)HGF遺伝子の導入は,pmHGF-LacZフQラスミドを4週齢から3週毎にエレクトロポレーションにより筋肉に導入した.効果判定のため,尿蛋白と腎病理組織などを経時的に検討した.3)ラットメサンギュウム細胞を用い,rhTGF-β1を2ngと4ngに分け培地に添加すると共に,pCAG-mHGFを遺伝子導入し,HGFとTGF-β1相互の制御機構について検討した.【結果】1)HGFの発現は,C4a4 koマウスでは野生型マウスと比べ抑制されていた.逆にc-Metの発現は,野生型マウスよりもC4a4 koマウスにおいて元進していた.2)血中HGF濃度は,尿蛋白が顕在化する前から低下し始め,8週齢には野生型マウスの半分以下まで低下した.また,mHGF群の血中濃度は,高値に保たれていた.3)mHGF群では,尿蛋白が抑制され,生命予後も有意に改善した.4)対照群に比べ,mHGF群で8週齢の糸球体上皮細胞数は有意に保たれ,TUNEL陽性の上皮細胞は有意に減少していた.5)TGF-β1を添加した培養細胞ではHGFの発現は抑制され,4ng添加した細胞でより強く抑制された.また,mHGFを強制発現させた細胞では,TGF-β1の発現は抑制された.6)8週齢の単離糸球体を用いたRT-PCRの結果,mHGF群では,対照群に比べSmad2,3の発現は抑制されていた.また,TGIFは,mHGF群では,対照群に比べ有意に増加していた.【考察】本研究の培養実験結果から,本マウスの血中HGF濃度の低下は,腎臓でのTGF-β1の発現増加と血中TGF-β1濃度増加に起因し,また,HGF遺伝子治療は,血中HGF濃度の増加させることで,血中TGF-β1濃度を低下させていることが推測された.長期間のHGF遺伝子治療は,C4a4 koマウスの腎症に対して有効であった.本症でのHGFの効果は,低HGF血症を改善することで,TGF-β1の発現および生物活性を抑制させ,病初期にはアポトーシスをはじめとする糸球体上皮細胞への細胞障害を抑制し,また病中期以降では同様の機序で尿細管問質の線維化抑制作用を発揮し,有効に作用すると考えられた.HGFはヒトへの臨床応用に向けて検討されるべき薬剤であると考えられた.