貝殼真珠層を構成するタンパク質の構造と赤外線吸収スペクトル
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概要
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貝殻の3層(真珠・稜柱・葉状構造)の未脱灰薄片および真珠層の薄片灰を脱した膜について,4000〜700cm^<-1>の波数領域の赤外線吸収スペクトルを測定し,主として真珠層構成タンパク質について次のような結果をえた.1.薄片の赤外線吸収スペクトルは(CO_3)^<2->イオンによる吸収で特徴ずけられ,貝殻の構造により差異を示す.2.真珠層の脱灰した膜の赤外線吸収スペクトルは,アミド特性吸収帯により特徴ずけられるので,この膜は大部分タンパク質からなることがわかる.3.真珠層の脱灰した膜のアミド吸収帯における1655と1630cm^<-1>の吸収から,膜を構成するタンパク質が,ポリペプチド鎖の捲いた構造と,その伸びたβ構造からなることがわかる.アミド吸収帯の1690cm^<-1>の吸収は,このβ構造が逆平行-β-構造をとることを示している.4.ポリペプチド鎖の捲いた構造は,アミドI吸収帯から,α-ヘリックスであるかランダムコイルであるか推定できない.波数領域4000-400cm^<-1>について測定されたHaliotis asininaの赤外線吸収スペクトルにおいて,捲いた構造に対応するアミドV吸収帯と考えられる620-625cm^<-1>の吸収は,α-ヘリックスのそれに近い位置(波数)を示している.5.アミドIの1655cm^<-1>と1630cm^<-1>の吸収の比較強度が,生物分類に対応すると思われる差異を示す.Pelecypodaにおいては,β構造による1630cm^<-1>の吸収が捲いた構造による1655cm<-1>のそれより強い吸収となっているが,Gastropodaにおいては,逆に1655cm^<-1>の吸収が1630cm^<-1>のそれより強いことを示している.6.真珠層の脱灰した膜にみられる水素結合の関与するアミドA吸収帯(3260cm^<-1>)の波数は他の多くの繊維状タンパク質のそれより低い値を示す.このことは,膜を構成するタンパク質のNH……O水素結合の強度が大きいことを示し,タンパク質の安定性の問題としてとらえられる,7.真珠層の未脱灰の薄片の赤外線吸収スペクトルにおいて,脱灰した膜のそれのアミドA吸収と等しい波数の吸収帯が検出された.しかし,他のアミド吸収帯とみられる吸収は,未脱灰の薄片に検出されなかったので,本報告で推定された脱灰した膜を構成するタンパク質の構造が,殻の中で本来とりうる構造であるかはわからなかった.8.さらに,偏光赤外吸収スペクトルの結果や,1200-800cm^<-1>の領域の吸収についても若干の考察を試みた.
- 1969-07-25
著者
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