紀伊長島"大島"から採取されたウロコマイマイ(新種)
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概要
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故黒田徳米博士によりウロコムロマイマイと仮命名されていた紀伊長島沖,大島産の本新種は,西宮市貝類館の黒田コレクションに標本2個体が,また国立科学博物館の河村コレクションの中にも2個体が保管されている。筆者は,本種の分類学的な研究のため,文化庁の許可を取得して2002年と2004年の2回にわたり渡島し,若干の生貝標本を得た。これらの標本に基づき,本論文では本種を新種として記載し,筆者の得た標本をホロタイプ,および黒田コレクションと河村コレクションの標本をパラタイプに指定した。また,中優氏の採取された資料も研究のために使用した。Satsuma(Satsuma) lepidophora n. sp ウロコマイマイ(新種・新称) 貝殻は低円錐形状,薄質で半透明(軟体部が透けてみえる),淡黄褐色,殻高10.6〜13.0 mm (成員7個体の平均では12.0 mm),殻径16.2〜18.8mm(平均では17.5 mm)。螺層の縫合は深い。殻表はざらざらして,微細な鱗状の殻皮突起物に覆われるが,成貝ではそれらが脱落して,痕跡的に微かに残っていることがある。住居は大きくて,殻高の2/3を占め,その周縁には弱い角が認められる。体層には色帯を欠く。殻口は半月状でその殻口縁の微かに拡がる,下縁部拡がって反曲する。臍孔は殻径の1/8〜1/9の広さでむしろ小さい。生殖器:鞭状器は多少細長くて(約10 mm),視棒状。陰茎鞘と陰茎はほぼ同じ長さで,陰茎付属肢は大きくて顕著。膣は陰茎よりも長く,中程から末端部にかけて多少肥厚している。ホロタイプ:NSMT-Mo 73712, 殻高11.6 mm,殻径17.6 mm。タイプ産地:三重県北牟婁郡紀北町紀伊長島"大島"。比較:本新種は貝殻の形態から伊吹山産のヤコビマイマイSatsuma (S.) jacobii (Pilsbry, 1900)や和歌山県田辺湾神島産のムロマイマイS. (S.) japonica peculiaris(A. Adams, 1868)に近似するが,ヤコビマイマイは貝殻が堅固で殻表に光沢があること,殻表に微細な螺状脈をもつこと,生殖器の鞭状器が木槌状に先が2分していることで本新種とは容易に識別される。ムロマイマイの貝殻は小形で(3個体の平均:殻高12.1 mm, 殻径14.9mm),堅固であること,体層に不明瞭な色帯を有すること,生殖器の鞭状器が細くなる上に,先端に向かうにしたがって急に細くなることで異なる。さらにオナジマイマイ科のオナジマイマイの無帯個体は,貝殻の外観上本新種に類似するが,生殖器に矢嚢や粘液腺を保持することから,これらを欠く本新種とは明らかに異なる。
- 日本貝類学会の論文
- 2006-09-30
日本貝類学会 | 論文
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