スギタニルリシジミ幼虫の低温下での速い成長
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概要
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山陰地方のスギタニルリシジミはトチノキのみに依存しているが,本種の生活史を解析する目的で野外調査と室内飼育を行った.成虫の発生消長から野外での産卵時期は4月下旬と推定され,樹上から落下する成熟幼虫のリタートラップでの採集量の変化から,幼虫がトチノキを離れるのは5月下旬と計測された.採集された成熟幼虫のほとんどは直後に蛹化した.これらから調査地(小鹿渓;三朝;鳥取県中部)での本種の卵・幼虫期間は約36日と推定された.異なる温度条件(18, 21, 24, 27℃;いずれも16L8D)でトチノキ花を与えて本種幼虫を飼育したところ,その発育零点は-0.9℃と極端に低い値となり,そのため発育有効温量は412日度と大きな値となった.この発育零点は昆虫類全体の中でも極めて低い値であるが,室内飼育実験で得られた温度発育速度回帰から野外調査地における幼虫期間を予測すると約26日となり(当該期間の平均気温は約15℃),11日間の卵期間を考慮すれば,野外調査に基づく上記推定期間とよく一致した.同条件でクズを用いて飼育したルリシジミ幼虫の発育零点は7.8℃だったので,スギタニルリシジミは特異的に低温域における速い幼虫発育を発達させたことが示唆される.これはまだ低温の春のトチノキの限られた開花期間中に,ほとんど全ての同化代謝を行わなければならない本種における著しい生活史適応のひとつと考えられる.
- 日本鱗翅学会の論文
- 2007-03-30
著者
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星川 和夫
Division Of Environmental Ecology Faculty Of Life And Environmental Science Shimane University
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米山 沙希
Division of Environmental Ecology, Faculty of Life and Environmental Science, Shimane University
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米山 沙希
Division Of Environmental Ecology Faculty Of Life And Environmental Science Shimane University