わが国産業におけるROE、ROAおよび生産性の長期推移
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概要
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わが国産業は、70年代央に初めて大きな不確実性に直面し、ROAもROEも大きく低下した。リスクを認識した企業は、負債比率を一転して下げ始め、それにより拡大してきた財務レバレッジ効果も同時に縮小に向かうこととなった。1980〜90年代には、ROE、ROAはともに、好況期、不況期の波をも呑み込んで趨勢的な低下を続けた。90年代末には、ROAには下げ止まりの兆しもみられるが、ROEは依然として構造的調整の支出を余儀なくされ記録的な低水準を継続している。また、負債比率は依然として低下を続けている。一方、労働の付加価値生産性(労働生産性)は、60年代以降従業員数の増加を伴いながら順調に上昇した。背景には、労働装備率の高い伸び、有形固定資産生産性の堅実な上昇がみられた。ところが、有形固定資産生産性はオイルショックを契機として伸びが止まり、それに対して、企業は従業員数を抑制しながら機械化を進め、労働装備率を一層高めることにより労働生産性を上昇させた。80年代に入ると、有形固定資産生産性は低下傾向が目立ち始め、労働装備率の伸び率も低下し、90年代にはついに、労働生産性の伸びが頭打ちとなった。従業員数も減少傾向を強め、上場企業の活動水準の停滞が明白となった。業種別にみると、80年代後半以降の非製造業のROE、ROAの推移に注目すべきである。80年代後半において非製造業の労働生産性が伸びない中での過剰雇用、耐用年数の長い設備投資続行がROE、ROAを低下させ、それ以後の非製造業の収益性にも長く影を落としたと考えられる。そして、90年代後半に至り、付加価値の総額が頭打ちとなるに至り、製造業以上に生産性ひいては収益性の低落、低迷が生じてきていると考えられる。ただし、ROAや生産性指標は、分母の資産にインフレの効果が含まれており、実現された収益性、生産性を表している。実現された収益性は合理的な投資決定の結果でないかもしれず、名目値に基づく評価には十分な注意が必要である。実際、製造業の有形固定資産生産性について物価水準調整を行ってみると、有形固定資産の生産性は名目値では70年代末をピークに今日まで低下傾向が続いているが、実質値では一定水準を保っており、80〜90年代を通しての低下傾向は観察されない。
- 日本財務管理学会の論文
- 2003-05-31
著者
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