複式干拓方式の沿岸防災機能
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概要
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農林水産省による2533億円を要した複式干拓方式の諌早湾干拓事業は,沿岸防災効果が全効果の約70%を占めて事業の主目的は沿岸防災である。この防災対策が諌早湾に最も有効な手法と主張されているのでその機能を検討した。本方式は高潮に対しては効果があるが,従来の堤防嵩上げ方式と機能的には変わらず,建設費用が約3倍も割高と推定される。また過去の諫早大水害級の洪水もこの方式により防げるとされるが,これに反して,本明川の危機管理に責任をもつ国と長崎県の河川当局は干拓事業後の洪水発生の危険性を数値的に示し,諌早市も洪水ハザードマップを公表している。特に洪水と高潮が重なる異常事態の防災効果が強調されているが,この種の発生例は過去約1世紀の間には見出し難い。また莫大な洪水量をわざわざ調整池へ溜め込む方式は問題を含むといえよう。一方,大雨時の内水氾濫には効果がなく,別途排水施設の整備をまたねばならない。さらに日本海洋学会編(2005)の学術書その他によれば,本事業は有明海異変の主要原因とみなされ,環境と漁業に対する甚大なマイナス効果が憂慮される。ゆえに複式干拓方式が沿岸防災に最も有効と主張することは理解し難く,適切な方法とは考えられない。
- 2008-11-05
著者
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