木材由来の化学物質放散速度に対する乾燥温度の影響について
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概要
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室内化学物質汚染とその健康影響が社会問題となり、いわゆる「シックハウス症候群」が広く認識されるようになった。建築の分野においては、2003年国土交通省が建築基準法を改正し、ホルムアルデヒド放散の少ない建材を積極的に活用することになった。特に、熊本県では県産木材の利用を推進しており、地元のスギやヒノキを内装などに用いた住宅産業が盛んである。一方、木材学の分野では、無垢の木材からホルムアルデヒドを始めとする化学物質が放散されることはよく知られている。しかしながら、一般的には、無垢の木材からホルムアルデヒドや揮発性有機化合物は放散されないかのように認識されており、「健康志向」の住宅に採用されることが多い。そこで、本研究は、建築環境工学の立場からこういった誤解を解くためにも、小形チャンバーを用いた試験を行い、木材を対象とした化学物質放散の実態を把握することを目的としている。供試体は、内装材料として多用される樹種として、日本のスギとドイツのスプルースを採用し、それぞれ丸太の状態から同じ部位の小さな木片を切り出した。これらを、3つの温度が異なる乾燥条件で所定の重量含水率に整え、ホルムアルデヒドを主に、経過日数ごとの化学物質放散速度を求めた。その結果、高温で乾燥させた木片のほうが、低温で乾燥させた木片よりも、ホルムアルデヒドの放散速度は大きく、揮発性有機化合物の放散速度は小さくなることがわかった。さらに、ホルムアルデヒド放散速度が極端に増える乾燥温度は、樹種によって異なることが示唆された。しかしながら、無垢の木材から放散されるホルムアルデヒドは、合板類でもっとも放散速度が少ない「F☆☆☆☆」の基準値と比較して、非常に少ないことが明らかになった。近年、短期間に一定量の木材を供給するため高温で乾燥させることが多く、技術の進歩によりひび割れやそりも少なくなっている。今回試験に供した木材に関しては、高温乾燥により化学物質放散を抑制することができ、内装材料として用いた場合に室内空気質への影響は少ないと考えられる。しかしながら、将来的に各種揮発性有機化合物の規制が強化されれば、樹種や産地などの条件によっては木材から放散される化学物質が問題となる可能性がある。今後は、木材の乾燥および保管条件、木理、樹種、産地などの異なる場合について、同様の研究が必要であり、さらに、接着剤との組合せによる化学物質放散の実態を把握する必要があろう。
- 2008-11-30
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