大正期の児童相談事業に関する研究
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概要
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本稿は、大正期の児童保護事業のなかでも児童相談事業の変遷を追いながら、対象者の歴史的変化とその背後にある社会背景や政策主体の意図について考察した。具体的には、大正期の子どもと家族をとりまく社会状況と政策方針をふまえながら、児童を対象とする研究所による児童相談事業、児童健康相談事業、少年職業相談事業ならびに教育相談事業の成立過程を追うとともに、政策主体が上記の児童相談事業をどのような意図を持って把握し、政策の中に取り込んでいったのかを検討した。検討の結果として、児童相談事業は一見、中心的に活動した人物の思想や当時の社会のニーズに応じてつくられては、実情に合わないものなどは自然淘汰されていったようにみえるが、医学や心理学などの「科学的な知」の輸入と国内での定着、そして「科学的な知」を受け入れる新中間層の登場、そして、列強諸国へ肩を並べるべく急速に近代化を推し進め国力増強を図った政策主体の意図などと深く関連しながら進められてきたことを明らかにした。そして、児童相談事業は研究や政策の進展をもたらす一方で、一般児童とその母親ないし家族のもつ問題を政策対象として見出し、その生活に介入していく一つの手段となったことを導き出した。また、国民の生活への介入と国家統制という問題は、現代においても共通であることを指摘した。