予防原則に合理的根拠はあるのか
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概要
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近年、特にヨーロッパを中心として、環境問題や食品の安全性をめぐる政策的指針あるいは法的判断の根拠に、「予防原則」(precautionary principle)という考え方を適用しようとする傾向がますます強くなってきたと見られる。しかし、こうした実際上の適用拡大が認められる一方で、予防原則が「原則」として必ずしも確立された一定の内容をもつものではないため、またその適用の仕方についてもケースごとにバラツキがあることから、予防原則についてのアカデミックな議論の場では実に多様な論点、視点が生まれることになって、予防原則を捉えるための一貫した問題意識が持ちにくい状況になっている。とりわけ、一般に自明視されがちな、予防原則適用の「合理的根拠」について、これをどの議論がどのような視点で擁護しているのか、合理性を否定的に見る議論に対してどの程度擁護として成立しているのかが、その論点の多様さゆえに見通しにくくなっており、合理性を重んじたい哲学者には非常に歯がゆい状況にある。概ね、否定的な論者の掲げる論点は明確で、かつ論者にかかわらずおよそ論点は集約されるのに対して、擁護派の議論がこれとどう噛み合い、果たして十分な反論になっているのかどうかが分かりづらい。小論では、この予防原則の合理的根拠について、これまでなされてきた関連の議論のうち、筆者が主要な議論と考えるものについてその要点を整理する中で、最終的に、現在擁護論として最も有力と見なしうる議論がどの程度批判に耐えうるものなのかを考えてみたい。
- 神戸大学の論文
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