「公理」の語用論 : グライス式"Maxim"の訳語と言語表現の誤解誘起効果
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概要
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本論文の目的は、Grice(1975)における maxim の訳語として使われている「公理」の考察を通して、「翻転法」に起因する情報伝達上の問題と、可能な対処法を示すことである。「同じものに等しいものはまた互いに等しい。」においては、両下線部の間で数の転換が起きている。このような言葉の使い方を、本論文では「翻転法」と呼ぶ。数学教育に携わる日本人研究者が非意識的に使う翻転法は、しばしば理解を著しく妨げる。それゆえ、maxim の訳語として「公理」を使うなら、無標の「公理」との違いを念入りに説明する必要がある。さもないと、命令と陳述の間で学習者が混乱し、誤解することになりかねない。「公理違反」という連結は無標の「公理」では起きにくい事実も見逃してはならないが、それに注目すると、Austin(1962)の言語行為論と連動する「言語対応論」が構想される。翻転法に起因する問題の発生は、ある程度、学校教育で予防することが可能である。