一般固有値問題における前処理付共役勾配法による大次元スパース対称行列の固有解の一算定法
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
1 はじめに コンピュータの計算速度,容量など,その性能は指数関数的に進歩して現在に至っており,計算力学などによる数値シミュレーションは実用化の時代に入ったといえる.そして,それぞれの分野の解析法は,大次元の連立1次方程式あるいは固有値問題に帰着する.現在,ソルバーとしてICCG法,SCG法等の前処理を施した共役勾配法系の反復法(PCG法)やAMG法とCG法を組み合わせた方法などが並列化と共に注目されている.これらは,消去法に比べ主記憶領域を極めて少なくできるため,有限要素法などに見られる大次元でスパースな行列に対して有力な解析手段となる.提案法はICCG法やSCG法などの前処理を施した共役勾配法系の反復法や原点移動逆べキ乗法および2分法を利用しながら,大次元スパース行列で小さい方からあるいは大きい方から数個の固有解を求める場合に有効である.大きい方から数個の固有解を求める場合も,逆ベキ乗法で小さい方から数個の固有解を求める場合と同様に数値解析できるのが特徴である.逆ベキ乗法やサブスペース法は要求される固有解以外の解を求める必要があるが,提案法はその必要がないので,計算機の記憶容量を最小限に押さえられると共に,正定値性と非正定値性を利用した方法の採用および固有解以外の解を求める必要がないことにより,計算時間の大幅な短縮化も可能としている.多重根に対しては収束が遅いのが一般的であるが,提案法は逆に早くなる特徴も持っている.また,固有解は小さい方からあるいは大きい方から順番に確実に求められるので安定性を保持した解法ともなっている.2 共役勾配法による固有解 一般固有値問題は[A^^~-λB^^~]φ=0によって与えられる.ここに,A^^~はn×nの実対称行列で,B^^~はn×nの正値実対称行列であり,λは固有値で,φは対応する固有ベクトルである.シルベスター慣性則を応用したPCG 法により行列Aの符号数が決定される.しかし,数値計算で生じる丸め誤差のために,極小次元問題の場合を除いて,共役方向ベクトルに関する行列Aの共役性が演算の進行に伴いくずれていく.そのために,提案法によって計算された試行固有値が正しい固有値に接近するとき,符号変化数が正しく求まらない.この不安定性を避ける方法を提案した.最小固有解からいくつかの固有解を求める場合と最大固有解からいくつかの固有解を求める場合について@の考え方を示した.3 アルゴリズム 提案法のアルゴリズムの1例を本文に示した.4 数値実験 提案法の検証のために,本法と2分法を使い,近似固有解を求めた後,原点移動逆ベキ乗法と2分法を使って,固有解の精度を向上させる手順により,標準固有値問題および一般固有値問題に対する数値実験を行った.また,提案法との比較のために,サブスペース法を使用した.最初に,長方形領域における2次元ヘルムホルツ方程式を離散化して生じる標準固有値問題を扱う.Figs.3-6は2分法におけるステップ毎のICCG法の反復回数と試行固有値の収束状況を表している.小さい方から5個の固有解を求める場合,非正定値行列の時,試行固有値が実際の固有値に近づくまでは,ICCG法の反復回数は1回(ステップ1から5)と極端に少なく,急激に固有値の存在範囲は狭まっている.解に近づいても10回以内と非常に少ない.正定値行列の時,収束判定値を満足するまでICCG法は反復を行っている.Fig.5から,提案法は,2分法を利用することによりleft(左試行固有値)とright(右試行固有値)が次第に狭まり,確実に固有値に収束している.また,Figs.4と6から,大きい方から5個の固有解を求める場合も,小さい方から5個の固有解を求める場合と同様な傾向を示した.Figs.7-8はサブスペース法とのCPU時間の比較を描いているが,小さい方から5個の固有解を求める場合,サブスペース法のおよそ1/39〜1/60(<40000自由度)の時間で,また,大きい方から5個の固有解を求める場合,サブスペース法のおよそ1/23〜1/124(<40000自由度)の時間で計算されており,自由度の増加に伴いその差は指数関数的に大きくなる傾向を示した.2番目の計算例は,Fig.9に示すように剛節節点を有する建築骨組についての有限要素法(FEM)による一般固有値問題である.ここでは,工学系で必要とされる小さい方から5個の固有解を提案法とサブスペース法の両方法によって計算した.数値実験に用いたパラメーターをTable3に示す. 表に示されるように,5通りの自由度に対して数値計算を行った.固有値の探索は最初の計算例と同様な性状を示しており,ここではその説明を省いた.Figs.10-11はサブスペース法とのCPU 時間の比較を描いているが,サブスペース法のおよそ1/5-1/22の時間で計算されており,最初の計算例と同様に自由度の増加に伴いその差は大きくなることを示した.FEMにおいても,同様な傾向を示すものと思われる.5 結語 理論的には,sign(p^TAp)によって対象とする行列の符号数を計算できるので,PCG法の計算をしながら固有値の個数をカウントできる.演算時の誤差の影響を受けなければ,ハウスホルダー2分法のように固有解を求め得る方法であるが,丸め誤差により固有解の近傍では符号変化数を正しくカウントできない場合がほとんどである.その対処法として,行列の2次形式の固有ベクトルによる表現式および行列の正定値性と非正定値性を利用して確実かつ迅速に固有解を求める方法を提案した.多重根を持つ行列に対して収束は遅くなるのが一般的であるが,提案法の理論と数値実験により,特に多重根を持つ行列の方がそうでない行列より早く収束することが示された.本法はPCG法系の解法であるので,大次元スパース行列で小さい方あるいは大きい方から数個の固有解を必要とする場合に有効であり,要求される固有解以外の解を必要としないので,計算機の記憶容量を最小限に押さえられる,計算時間も短い,精度も良い,安定性のある解法と考えられる.また,並列用PCG法を用いれば並列処理による高速化も可能である.
- 2008-07-30
著者
関連論文
- 一般固有値問題における前処理付共役勾配法による大次元スパース対称行列の固有解の一算定法
- ダブルシフト逆ベキ乗法によるスパース対称行列の中間固有解の一算定法(実用)
- 大次元スパース対称行列の固有解に対するシルベスター慣性則を使った前処理付共役勾配法
- 残差ベクトルを用いた標準固有値問題の部分空間解法
- 容器内に設置した浮きと液体からなる振動体の固有周期
- 237 一般化共役勾配法(GCG法)の有限要素法への適用に関する研究 : その8 平面骨組の非線形モデル数値実験(構造)
- 11025 GCG法(一般化共役勾配法)の有限要素法への適用に関する研究 : その8 剛性の偏りを考慮した骨組の線形数値実験
- 11024 GCG法(一般化共役勾配法)の有限要素法への適用に関する研究 : その7 剛性の偏りを考慮した立体骨組の収束性
- 11023 GCG法(一般化共役勾配法)の有限要素法への適用に関する研究 : その6 剛性の偏りを考慮した平面骨組の収束性状
- 222 一般化共役勾配法(GCG法)の有限要素法への適用に関する研究 : その7 剛性の偏りを考慮した骨組の線形数値実験(構造)
- 221 一般化共役勾配法(GCG法)の有限要素法への適用に関する研究 : その6 剛性の偏りを考慮した骨組の収束性状(構造)
- 11031 CGC法(一般化共役勾配法)の有限要素法への適用に関する研究 : その5 平面・立体骨組の線形数値実験-C
- 11030 CGC法(一般化共役勾配法)の有限要素法への適用に関する研究 : その4 平面・立体骨組の線形数値実験-B
- 11029 CGC法(一般化共役勾配法)の有限要素法への適用に関する研究 : その3 平面・立体骨組の線形数値実験-A
- 部分修正系逆ベキ乗法による固有値解析
- 部分修正行列用逆ベキ乗法による固有値解析(実用)
- 共役勾配法による大次元スパース対称行列の固有解
- 213 標準固有値問題におけるブロックランチョス法のブロック次数とブロック数に関する研究 : その2. 3次元問題(建築構造)
- 212 標準固有値問題におけるブロックランチョス法のブロック次数とブロック数に関する研究 : その1. 2次元問題(建築構造)
- 210 大変位弾塑性有限要素法に関する基礎的研究 : その2.極限点の探索(建築構造)
- 209 大変位弾塑性有限要素法に関する基礎的研究 : その1.増分変位量,分割個数(建築構造)
- 区分的に値を持つ基底ベクトルを用いた対称行列用連立一次方程式の反復解法
- 大変位弾塑性有限要素法に関する基礎的研究
- 標準固有値問題におけるブロックランチョス法のブロック次数とブロック数に関する研究
- 11040 ブロックランチョス法におけるブロックサイズとブロック数に関する研究(数値解析・制御・計測・ロボット,情報システム技術)
- 240 ブロックランチョス法におけるブロックサイズとブロック数に関する研究(建築構造)
- 11024 大次元スパース対象行列の固有解に対する前処理付共役勾配法
- 11026 GCG法(一般化供役勾配法)の有限要素法への適用に関する研究 : その13 平面応力問題の線形モデル数値実験
- 11025 GCG法(一般化供役勾配法)の有限要素法への適用に関する研究 : その12 特異性判定修正式と悪条件下数値実験
- 一般化共役勾配法(GCG法)の有限要素法への適用に関する研究 : その4 特異性判定修正式と平面・立体骨組の悪条件下数値実験
- 236 ハイブリッドサブスペース法による固有値問題の解析 : その6 標準固有値問題の数値実験(構造)
- 11033 ハイブリッドサブスペース法による固有値問題の解析 : その4.多質点系モデルおよび平面骨組モデルの数値実験-B
- 11032 ハイブリッドサブスペース法による固有値問題の解析 : その3.多質点系モデルおよび平面骨組モデルの数値実験一A
- 223 ハイブリッドサブスペース法による固有値問題の解析 : その3 多質点系モデルおよび平面骨組モデルの数値実験(構造)
- 11034 ハイブリッドサブスペース法による固有値問題の解析 : その2. 数値実験
- 11033 ハイブリッドサブスペース法による固有値問題の解析 : その1. 理論およびアルゴリズム
- 213 一般化共役勾配法(GCG法)の有限要素法への適用に関する研究 : その4 平面・立体骨組の線形数値実験結果(構造)
- 304 鉄骨骨組の離散化最適設計に関する研究(構造)
- 11029 応力比法および変形比法による離散化最適設計 : その2.数値実験
- 11028 応力比法および変形比法による離散化最適設計 : その1.アルゴリズムの概要
- 220 応力比法および変形比法による鉄骨構造骨組の最適設計(構造)
- 11018 骨組の離散化最適設計に関する研究
- 一般化共役勾配法(GCG法)の有限要素法への適用に関する研究 : その2 平面・立体骨組の線形モデル数値実験
- 214 一般化共役勾配法(GCG法)の有限要素法への適用に関する研究 : その5 線形数値実験結果および結語(構造)
- 212 一般化共役勾配法(GCG法)の有限要素法への適用に関する研究 : その3 平面・立体骨組の線形数値実験概要(構造)
- 一般化共役勾配法(GCG法)の有限要素法への適用に関する研究 : その1 理論およびアルゴリズムの概要
- 11028 GCG法(一般化共役勾配法)の有限要素法への適用に関する研究 : その8 平面骨組の非線形モデル数値実験
- 11026 ハイブリッドサブスペース法による固有値問題の解析 : その7 標準固有値問題への適用性
- 326 一般化共役勾配法(GCG法)の有限要素法への適用に関する研究 : その13 平面応力問題の線形モデル数値実験(構造)
- 325 一般化共役勾配法(GCG法)の有限要素法への適用に関する研究 : その12 特異性修正判定式と悪条件下数値実験(構造)
- 11026 GCG法(一般化共役勾配法)の有限要素法への適用に関する研究 : Appoication尾FireGeneralizedConjugateGradientMethod to Finite Element Analyses
- 11025 GCG法(一般化共役勾配法)の有限要素法への適用に関する研究 : その10 不完全対角マトリクスとオーダーリング
- 235 一般化共役勾配法(GCG法)の有限要素法への適用に関する研究 : その11 悪条件な平面・立体骨組の非線形モデル数値実験(構造)
- 234 一般化共役勾配法(GCG法)の有限要素法への適用に関する研究 : その10 不完全対角マトリクスとオーダーリング(構造)
- 一般化共役勾配法(GCG法)の有限要素法への適用に関する研究 : その3 平面・立体骨組の非線形モデル数値実験
- 共役勾配法による最大あるいは最小固有解の一算定法
- 11009 GCG法(一般化共役勾配法)の有限要素法への適用に関する研究 : その9 立体骨組の非線形モデルの数値実験
- 共役勾配法による最大あるいは最小固有解の一算定法
- 317 一般化共役勾配法(GCG法)の有限要素法への適用に関する研究 : その9 平面・立体骨組の非線形モデル数値実験(構造)
- 11035 一般化共役勾配法によるスツルム列固有値解析
- 一般固有値問題におけるダブルシフト逆ベキ乗法によるスパース対称行列の中間固有解の一算定法