ろう児の思考のいわゆる硬さに関する実験的研究
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概要
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ろう児の思考におけるいわゆる硬さの問題を明らかにするために思考に関してLuchinsの問題解決の方法(問題解決の原理の転換を要求する)にしたがって分類実験を行なった。実験材料として被検児に未知の文字(漢字)を使用した。被検児は10才〜16才のろう児171名と普通児72名であった。原理の転換にみられる抽象的思考の成立を発達的比較検討した。問題群間の原理の転換に要する時間の割合(転換係数)を測った。両群とも年令増加とともに増加した。しかし普通児は11才、12才、ろう児は13才、14才でその最大値に達し、その後、減少することが明らかにされた。転換のための所要時間の増大は概念水準での思考に対する成熟を示すものと考えられるが、この点でろう児は2年の遅滞を示した。しかし、転換係数は最大値に達した後は普通児もろう児も同様に減少の傾向を示した。したがってろう児の思考におけるいわゆる硬さ(移行の困難)は概念的思考様式への発達的移行における一時性のものとみなされる。これは概念的思考期への成熟の遅滞であって発達異常を示すものではない。とはいえろう児の転換係数が聴児の係数がピークを示した後、聴児にくらべて大きいことは新しい問題状況に対する知的適応の困難を示すものであり、いわゆる思考の硬さをあらわすものといえよう。これは上に述べた発達の遅滞によるであろうが、その基礎には、ろう児の視覚に依存する知覚体制の未分化が主な要因として存在すると考えられるが、また適応に対しての動機付けの要因も考えられる。言語の制限からくるとみられる言語性知能の低いことがろう児の思考における硬さの本質的要因とはみなされない。
- 日本特殊教育学会の論文
- 1967-03-31
著者
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