異文化における移住者のアイデンティティ表現の重層性 : 在日韓国・朝鮮人の墓をめぐって
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概要
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本稿では,日本へ移住し定着しつつある在日韓国・朝鮮人(特に在日一世)が日本に建てた墓を事例としながら,異文化社会に移住者として生きる人々のアイデンティティ表現の特徴を引き出すことを試みる。大阪近郊には少なくとも2つの在日韓国・朝鮮人専用霊園が存在し,日本風の墓碑を伴った墓が多く建立されている。景観的には日本のふつうの霊園と大差ないが,しかしその墓碑面には,日本人の墓には見られないような故人に関するさまざまなデータが刻まれており,四面全部が文字に埋め尽くされているケースも珍しくない。こうした墓誌の特異性は,彼らの粗目における墓の文化的重要性を彷彿させるとともに,墓が自己表現のメディアになっていることを予感させる。そこにはまた,移住者による新たな文化創造の可能性も見て取ることができる。墓誌の具体的な内容には,朝鮮の民族的文化要素が多用されているため,一見するとそれは「民族的アイデンティティ」の表現であると捉えられがちである。しかし,在日社会一般ではなく「個人」あるいは「家族」といった次元に着目してみると,民族的アイデンティティの表現と見えたものが全く異なる相の下にたち現れてくる。そこから,民族性の問題に主たる関心を注いできた従来の在日韓国・朝鮮人研究では見えてこなかった,移住者として生きるもののアイデンティティとその表現の重層性が浮かび上がってくる。
- 1996-12-30
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